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発表論文解説

メラノコルチン2型受容体は、副腎皮質の発生、ステロイド合成、糖新生に必要である

Proc Natl Acad Sci USA. 2007;104(46):18205-18210
千田 大1、2、中川真一、永井聡、相良洋、勝又晴美、今城俊浩、鈴木春巳、三谷芙美子、荻島正、清水力、小瀧逸人、角田茂、須藤カツ子、小池隆夫、久保光正、岩倉洋一郎
1、東京大学医科学研究所・ヒト疾患モデル研究センター、2、国立国際医療センター研究所¬・臨床病理部、3、理化学研究所・フロンティア、4、北海道大学大学院医学研究科 内科学講座・第二内科、5、東京大学医科学研究所・疾患プロテオミクスラボラトリー、6、日本医科大学・老人病研究所7、慶応大学医学部医化学教室、8、九州大学大学院理学研究院、9、北海道教育大学
Chida D, Nakagawa S, Nagai S, Sagara H, Katsumata H, Imaki T, Suzuki H, Mitani F, Ogishima T, Shimizu C, Kotaki H, Kakuta S, Sudo K, Koike T, Kubo M, Iwakura Y. Melanocortin receptor 2 is required for adrenal gland development, steroidogenesis and neonatal gluconeogenesis. Proc Natl Acad Sci USA. 2007;104(46):18205-18210

生体は、免疫系、内分泌系、神経系等がサイトカインやホルモンを介して互いに情報を交換することによって、個体レベルでの恒常性を保っている。生体に炎症や感染などを含む種々の物理的、精神的ストレスが加わると、自律神経と視床下部—下垂体—副腎系(HPA axis)を介して、副腎皮質ホルモン(グルココルチコイド:ステロイドホルモンの一つで、血糖値を上げ、炎症反応を抑制する)の分泌が引き起こされる。グルココルチコイド分泌は、下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)によって促進される。ストレス反応は生体の恒常性の維持に重要な役割を果たしていると考えられているが、一方では慢性的なストレスが様々な病態と関連することも報告されている。我々は生体におけるストレス応答の生理的意義を明らかにするために、ACTH受容体遺伝子改変マウス(MC2R KO)を作製した。驚いたことに、KOマウスは大部分が生後間もなく死に、離乳まで生き残るものはわずかであることがわかった。新生児は極端な低血糖であり、糖新生がうまくいっていないことがわかった。新生児は、出生に伴い母体からの血流を介した栄養分の供給が断たれ、ミルクという高脂肪の餌からエネルギーを得なければならなくなる。出生は、個体が初めてストレスにさらされる時であると言える。MC2R KOマウスはこのストレスにうまく応答できないために死ぬ、と考えられる。 071228.png生き残ったMC2R KOマウスは、体長、体重に違いは見られなかったが、副腎皮質のグルココルチコイドを生産する部位である束状層の萎縮が見られた。このことから、ACTHは束状層の細胞分化に重要な役割をしていることが推測された。血中のホルモンレベルを測定すると、グルココルチコチドは検出限界以下で、エピネフリンも低値を示した。興味深い事に、血中アルドステロンレベルも低下しており、ACTHシグナルがアルドステロンの合成、分泌制御にも関与していることが示唆された。ACTH受容体は、ヒトの遺伝病の副腎低形成の一種、グルココルチコチド欠乏症(ACTH不応症)の原因遺伝子の一つとして知られているが、MC2R KOマウスに見られる病態はグルココルチコチド欠乏症の病態と良く似ており、疾患モデルとして有用であると考えられる。グルココルチコチドは抗炎症剤として昔から利用されてきたが、その作用機序の理解が不十分だったために、少なからず医原性の病態を引き起こしてきた。今後、ストレス反応の生体内での生理的、病的機能に関する理解が一層進んで行く事が期待される。
 本研究は、北海道教育大学の久保光正教授と東京大学医科学研究所の岩倉洋一郎教授のグループとの共同研究として行われたものであり、論文執筆中の2007年1月に病床でお亡くなりになられた久保光正教授のご冥福をお祈り致します。