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発表論文解説

十二指腸潰瘍の原因遺伝子を発見

Nature Genetics 10.1038/ng.1109
谷川千津1,卜部祐司1, 松尾恵太郎2, 久保充明3, 高橋篤3, 伊藤秀美2, 田島和雄2, 鎌谷直之3, 中村祐輔1, 松田浩一1
1 東京大学医科学研究所 ゲノムシークエンス解析分野/シークエンス技術開発分野、2 愛知県がんセンター、3 理化学研究所 ゲノム医科学研究センター
A genome-wide association study identifies two susceptibility loci for duodenal ulcer in the Japanese population.

世界全体の約半数が感染しているピロリ菌は胃癌や胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因となります。同じピロリ菌が原因にも関わらず十二指腸潰瘍の患者は胃癌になりにくい事がこれまで知られていましたが、この違いがどの様に決まっているかは明らかになっていませんでした。

今回我々は、7072人の十二指腸潰瘍患者及び健常者26116人について、約60万箇所の遺伝暗号の違いについて調べました。その結果、2つの十二指腸潰瘍の原因遺伝子を発見しました。一つは血液型を決めているABO遺伝子で、O型の人ではA型に比べ1.43倍病気になりやすいことが分かりました。もう一つは胃癌のリスク遺伝子としても知られていたPSCA遺伝子で、十二指腸潰瘍になりやすいタイプの人(CC型)では潰瘍のリスクが1.84倍増える一方、胃癌のリスクが約半分(0.59倍)になることが分かりました。

ではなぜ十二指腸潰瘍のなりやすさが変わるかですが、我々は一塩基の違いによって違う長さのPSCA蛋白質が作られることを見つけました。長いタイプのPSCA(T型)は細胞膜上に局在するためのシグナルペプチドを持っており、膜上のPSCAは細胞の分裂増殖を活性化します。その結果、障害を受けた十二指腸粘膜の修復が進み十二指腸潰瘍にはなりにくくなりますが、逆に細胞の増殖が進むことで胃癌のリスクは上昇します。一方短いタイプのPSCA(C型)ではシグナルペプチドを失う結果、細胞の中で速やかに分解されます。分解されたPSCAは局所の炎症反応を促進する事で、十二指腸潰瘍のリスクを高めると考えられました。

今回の研究により血液型やPSCAの遺伝子を調べることで、ピロリ菌感染者の十二指腸潰瘍や胃癌の発症リスクが予測出来るだけでなく、リスクに応じて除菌や生活習慣の改善、定期的な内視鏡検査を行う事で病気の予防、早期発見が可能となります。120305.pngさらにPSCAは色々な癌で活性化されている事から、PSCAを標的とした治療法の開発や、PSCA遺伝子の型に応じて薬を使い分けるなど、個別化医療が進んでいくことが期待できます。

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