東京大学医科学研究所

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発表論文解説

インフルエンザウイルス遺伝子の立体構造の解明

Nature Communications Vol.3, 639 doi:10.1038/ncomms1647
野田岳志1、杉田征彦1、青山一弘2、平瀬愛3、川上英良1、宮澤敦夫3、相良洋4、河岡義裕1
1東大医科研ウイルス感染、2日本FEI、3理化学研究所、4東大医科研疾患プロテオミクスラボラトリー
Three dimensional analysis of ribonucleoprotein complexes in influenza A virus. Takeshi Noda, Yukihiko Sugita, Kazuhiro Aoyama, Ai Hirase, Eiryo Kawakami, Atsuo Miyazawa, Hiroshi Sagara, Yoshihiro Kawaoka

ウイルスが増殖するためには、他の生物と同様に、自身の遺伝子を次の世代に正確に伝えなければならない。すなわち、ウイルス粒子が自身の遺伝子を取り込む過程は、ウイルス増殖で最も重要なステップと言える。インフルエンザウイルスの遺伝子は8本の分節に分かれている。以前、我々は、個々のウイルス粒子が8本の遺伝子分節を取り込むことを明らかにしたが(Noda et al., Nature, 2006)、そのメカニズムは未解明のままだった。

今回、我々は、走査型透過電子顕微鏡(注1)を用いた電子線トモグラフィー法(注2)により、インフルエンザウイルス粒子内に取り込まれたウイルス遺伝子(リボヌクレオ蛋白質複合体(注3))の立体構造を明らかにした。得られた立体構造から、8種類のウイルス遺伝子分節が核酸様(注4)のヒモ状構造物を介して互いに結合し、1つの超複合体を形成することが明らかになった。本成果は、インフルエンザウイルスが自身の遺伝子を子孫ウイルスに伝えるメカニズムの一端を明らかにしたものであり、さらに、ウイルス増殖における遺伝子超複合体の重要性を示している。120125.png遺伝子超複合体の形成阻害によりウイルス増殖を阻害できると考えられることから、今回の成果が、新規抗ウイルス剤の開発につながることが期待できる。

また、2009年に発生した新型インフルエンザウイルス(注5)に代表されるように、新型ウイルスのほとんどが2種類以上の異なるウイルスのハイブリッドである。本研究成果は、異なるウイルス由来の遺伝子分節が混成することで出現する新型ウイルスの発生機構を解明するために必要な基礎知識としても重要である。

(注1)走査型透過電子顕微鏡;電子線を収束させたプローブを走査させ、試料(超薄切片)を透過した電子線から像を得ることのできる電子顕微鏡。
(注2)電子線トモグラフィー;電子顕微鏡を用いたコンピューター断層撮影法(CT)。様々な角度(-70°~+70°)から透過像を撮影し、撮影した連続傾斜像をコンピューター上で解析することで、観察対象の立体構造を再構築する。
(注3)リボヌクレオ蛋白質複合体;RNAと蛋白質の複合体。ここでは、ウイルスのゲノムRNAとウイルス核蛋白質の複合体。
(注4)核酸様;核酸は、DNAおよびRNAのこと。核酸様は、DNAやRNAのような構造物を示す。
(注5)新型インフルエンザウイルス;世界的な大流行(パンデミック)を起こすインフルエンザウイルス。季節性ウイルスと異なるHA亜型を持つ新型インフルエンザウイルスに対して、我々は免疫を持たないため、爆発的に世界中に流行する。