東京大学医科学研究所

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発表論文解説

ナノゲルを用いた抗原デリバリーシステムは、安全性に優れたアジュバント不要経鼻ワクチン開発を可能にする

Nat Mater. 2010 Jul;9(7):572-8
野地 智法1、幸 義和1、高橋 治子2、澤田 晋一2、目島 未央1、幸田 智子4、原田 典弘3、孔 壹奎1、木村 あゆ子1、片岡 伸浩1、徳原 大介1、黒河 志保1、高橋 裕子1、塚田 秀夫3、小崎 俊司4、秋吉 一成2,清野 宏1
1,東京大学医科学研究所炎症免疫学分野
2,東京医科歯科大学生体材料工学研究所有機材料分野
3,浜松ホトニクス・PETセンター
4,大阪府立大学大学院生命環境科学研究科獣医環境科学分野
Nanogel antigenic protein-delivery system for adjuvant-free intranasal vaccines. Nochi, T., Yuki, Y., Takahashi, H., Sawada, SI., Mejima, M., Kohda, T., Harada, N., Kong, IG., Sato, A., Kataoka, N., Tokuhara, D., Kurokawa, S., Takahashi, Y., Tsukada, H., Kozaki, S., Akiyoshi, K., and Kiyono, H.

経鼻ワクチンは、抗原特異的免疫応答を全身組織に加え、粘膜組織(特に、上気道)にも誘導可能であることから、インフルエンザなどの呼吸器感染症に対する予防ワクチンとして非常に効果的とされています。一方で、粘膜組織は、通常は上皮層によって強固に覆われており、経鼻ワクチンの効果を最大限に期待するためには、上気道粘膜免疫システムへの効果的なワクチンデリバリー技術の開発が必要不可欠とされてきました。また、マウスを用いた実験系で粘膜アジュバントとして多用されているコレラ毒素は、経鼻投与した際に嗅覚細胞を介して中枢神経系への移行に伴う副作用の危険性を伴うことから、ヒトでの応用は難しく、アジュバントを必要としない経鼻ワクチン開発が、安全性の観点からも期待されてきました。 今回、当研究グループは、カチオン性のナノ粒子(ナノゲル)にワクチン抗原を内包し、それを経鼻投与することで、感染すると神経麻痺による致死性の高いボツリヌス菌や破傷風菌などのワクチン抗原を、効果的に上気道粘膜免疫システムにデリバリーさせることに成功し、高いレベルの防御免疫応答を、アジュバント非存在下でも誘導できることを実証することに成功しました。また、Positron emission tomography (PET)や組織学的な詳細な解析から、このナノゲルを経鼻ワクチンのデリバリー担体として用いることで、ワクチン抗原を鼻腔内に長時間(10時間以上)滞留させ、迅速かつ継続的に上皮細胞内を通過(トランスサイトーシス)させることが可能であることが明らかとなりました。さらには、上皮層を通過したワクチン抗原は、鼻粘膜組織に存在する樹状細胞に効果的に取り込まれることも明らかとなり、直ちに防御効果のある抗原特異的抗体を誘導するための免疫応答が開始されることも実証されました。また、本ナノゲルを用いた抗原デリバリー技術による、ワクチン抗原の中枢神経系への移行は全く認められないことも明らかとなり、その安全性も証明されました。