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発表論文解説

病原細菌の巧妙なオートファジー回避機構の発見

Nature Cell Biology DOI 10.1038/ncb1967 (2009)
吉川悠子1、小川道永1、Torsten Hain2、吉田光孝3、福松真1, 金玟秀4、三室仁美1、中川一路4、柳川徹5、石井哲郎5、垣塚彰6,7、Elizabeth Sztul8、Trinad Chakraborty2、笹川千尋1,4
1. 東京大学医科学研究所・細菌感染分野、2. Institute of Medical Microbiology, Justus-Liebig University Giessen, Germany、3. 順天堂大学大学院医学研究科・超微形態研究部門、4. 東京大学医科学研究所・感染症国際研究センター、5. 筑波大学大学院人間総合科学研究科・環境分子生物学、6. 京都大学生命科学研究科・高次生体統御学、7. Department of Cell Biology, University of Alabama at Birmingham, USA
Listeria monocytogenes ActA-mediated escape from autophagic recognition. Yuko Yoshikawa, Michinaga Ogawa, Torsten Hain, Mitsutaka Yoshida, Makoto Fukumatsu, Minsoo Kim, Hitomi Mimuro, Ichiro Nakagawa, Toru Yanagawa, Tetsuro Ishii, Akira Kakizuka, Elizabeth Sztul, Trinad Chakraborty, and Chihiro Sasakawa. Nature Cell Biology DOI 10.1038/ncb1967 (2009)

オートファジーは、細胞内の不要なタンパク質や老朽化した小器官を分解するとともに、変性タンパク質や細胞内へ侵入した病原体を異物として認識・分解する重要な浄化システムである。したがって、オートファジーの機能異常は、不要物の蓄積により細胞の恒常性維持、細胞寿命、発生・分化など多岐に影響し、さまざまな変性性疾患の一因となる。一方、免疫力の低下した患者、高齢者、妊婦に感染すると致命率の高いリステリア症(全身性感染症の一つ)を起こすリステリア・モノサイトゲネス(リステリア)は、宿主細胞内へ侵入し細胞内で活発に増殖・運動して周囲の細胞へ感染をさらに拡大する。今回我々は、リステリアはこの感染の過程で巧みな戦術を駆使してオートファジーを回避していることを発見した。細胞内へ侵入したリステリアはActAタンパク質をその表面に発現し、これが宿主細胞のArp2/3複合体およびVASPと結合して菌体の一極にアクチン重合を誘導する。アクチン重合を繰り返すことにより菌はその反動で細胞内を運動し、さらに細胞から細胞へと感染を拡大する。我々は、菌のオートファジーの回避メカニズムを詳しく調べた結果、本菌のオートファジーの回避は、菌の細胞内運動性には依存せず、むしろ菌の表面を覆っているActAが宿主のArp2/3複合体とVASPと結合し、それらが(いずれか一つでも十分)菌体表面へ繋留することが、オートファジーの認識を免れるために必須であることを突き止めた。即ち、菌体の表面が宿主タンパク質で覆われることにより、外来から侵入した菌でありながら、あたかも宿主細胞内でその一部のごとく擬装することにより、オートファジーによる異物認識を免れていることを明らかにした。090914.pngこれら宿主タンパク質と結合できない欠陥ActAを発現するリステリアは、細胞内で変性タンパク質凝集体と同様、ユビキチン化されオートファジーにより処理された。本研究から、リステリアは宿主細胞内で異物であることを巧妙に偽装して、オートファジーによる異物処理システムをすり抜け感染を持続する、極めて高度に進化した病原体であることが明らかとなった。本成果は、オートファジーに関連するさまざまな変性性疾患の解明とともに、結核菌などの病原細菌のオートファジー回避機構の解明にも重要な手がかりを与えると示唆される。