東京大学医科学研究所

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発表論文解説

病原細菌が腸管感染を拡大する巧妙な戦術を発見

Nature DOI 10.1038/nature07952 (2009)
金玟秀1,5、小川道永2,5、藤田幸裕2,5、吉川悠子2,5、永井武2,5、小山智洋3、長井伸也3、Anika Lange4、Reinhard Fässler4、笹川千尋1,2,5
1東京大学医科学研究所・感染症国際研究センター、2感染免疫部門・細菌感染分野、3日本生物科学研究所、4Max-Planck Institute of Biochemistry、5CREST・JST
Bacteria hijack integrin-linked kinase to stabilize focal adhesions and block cell detachment Nature DOI 10.1038/nature07952 (2009)

腸管の壁を覆う上皮細胞は、消化された食物や腸内に共存する無数の細菌に曝されている。この腸管の上皮細胞に、外界から侵入した病原細菌が感染すると、感染した細胞を除去してその間隙を素早く修復する。これにより、感染した病原体の腸管への定着を未然に防ぐことができる。即ち、腸管が感染した上皮細胞を除去することは、「病原体に対する基本的な生体防御システム」として重要である。

本研究では赤痢菌をはじめとする腸管系病原細菌が、このような防御システムに対抗して腸管での感染を拡大するために巧みな戦術を駆使していることを発見した。赤痢菌は腸の上皮細胞内へ侵入すると、細胞の中で OspE タンパク質を分泌する。OspE は、上皮細胞の接着を制御している宿主細胞の Integrin-linked kinase (ILK) と結合して、上皮細胞の腸管壁への接着を増強して感染細胞が剥離され除去されることを抑制する。その結果、赤痢菌は周囲の細胞へ感染を拡大することを可能にしていることを明らかにした。

赤痢菌のみならず O157 やサルモネラ属菌等の病原細菌も OspE を保有しており、いずれも上皮細胞へ分泌された OspE は、細胞内で ILK と結合する。090519.pngこれら多くの病原細菌が、腸管での感染を成立させるために、感染の足場となる上皮細胞が腸管壁から除去されることを阻止するための因子を分泌しているという、極めて高度に進化した感染戦略を共有していることを明らかにした。本成果は、OspEタンパク質の ILK への結合部位を標的とする薬剤が治療薬として有効であることを示唆する。