東京大学医科学研究所

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発表論文解説

ピロリ菌は、消化管上皮の代謝回転をアポトーシス抑制により遅らせる。-胃で増殖するための細菌の戦略-

Cell Host and Microbe 2, 250-263, 2007
三室仁美、鈴木敏彦、永井重徳、Gabriele Rieder、鈴木仁人、永井武、藤田幸裕、永松環奈、石嶋希、小安重夫、Rainer Haas、笹川千尋
感染・免疫部門 細菌感染分野
Hitomi Mimuro, Toshihiko Suzuki, Shigenori Nagai, Gabriele Rieder, Masato Suzuki, Takeshi Nagai, Yukihiro Fujita, Kanna Nagamatsu, Nozomi Ishijima, Shigeo Koyasu, Rainer Haas, and Chihiro Sasakawa. Helicobacter pylori Dampens Gut Epithelial Self-Renewal by Inhibiting Apoptosis, a Bacterial Strategy to Enhance Colonization of the Stomach. Cell Host and Microbe 2, 250-263, 2007

世界人口の半数以上が感染しているヘリコバクターピロリ菌 (Helicobacter pylori)は、胃粘膜に長期間持続感染して、胃炎、胃潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃ガンを誘発する。ピロリ菌が感染する消化管上皮細胞は絶えず新生と死を繰り返し、数日以内で入れ替わる。粘膜病原細菌の感染の足場である上皮細胞の迅速なターンオーバーは、宿主感染防御システムとして重要である。  本研究では、ピロリ菌が胃粘膜上皮細胞内へ分泌するCagAタンパク質が、アポトーシス細胞死の抑制因子であるMCL1タンパク質の発現を促進することにより、胃粘膜の細胞死を抑制し、その結果、上皮細胞のターンオーバーを遅らせることを明らかにした。 07101602.png  スナネズミにアポトーシス誘導剤を経口投与することで、胃粘膜上皮細胞のターンオーバーを観察しやすくすると、CagAを分泌するピロリ菌が感染したスナネズミでは、アポトーシスが抑制されることを見いだした。分子レベルでの解析の結果、CagAは、宿主のアダプタータンパク質であるGRB2やCRKと結合してERKキナーゼを活性化させることにより、ミトコンドリアに存在してアポトーシス抑制因子として作用するMCL1の発現を促進することが判明した。また、スナネズミの胃に定着した菌数を測定すると、野生型ピロリ菌を投与した場合には、CagAがない菌の場合よりも多数の菌が検出された。つまり、CagAを分泌するピロリ菌は、MCL1の発現を促進することで、胃粘膜感染の足場となる表層上皮細胞のアポトーシスによる剥離を抑制して、長期持続感染を成立させることが明らかになった。

写真:スナネズミ胃粘膜上皮細胞のアポトーシス
(左)アポトーシス誘導剤を投与しない場合は、胃表層の上皮細胞に、緑色で示すアポトーシスを起こした細胞が見られる。
(右)アポトーシス誘導剤であるエトポシドを経口投与すると、胃表層の多くの細胞がアポトーシスを起こし(緑色)、剥離する。