東京大学医科学研究所

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発表論文解説

M期中心体の構造と機能を保障するKiz

Nature Cell Biol., 8, 1095-1101 (2006)
押森直木、大杉美穂、山本雅
癌細胞増殖部門癌細胞シグナル分野
Oshimori, N. Ohsugi, M. & Yamamoto, T.: The Plk1 target Kizuna stabilizes mitotic centrosomes to ensure spindle bipolarity. Nature Cell Biol., 8, 1095-1101 (2006)

細胞分裂は1つの細胞から遺伝的に同一の2つの細胞を生み出す、最も重要な生命現象の一つである。特にM期における染色体の均等分配は、2つの極を持つ紡錘体によって厳密に制御されており(図A)、もし破綻すれば細胞は死に至るか、もしくは癌化する。それを防ぐために、細胞は紡錘体微小管と染色体動原体との適切な結合を監視するチェックポイント機構を発達させてきた。またこれに加え、紡錘体の極を2つに限定して維持することが染色体の均等分配にとって極めて重要である。動物細胞では中心体と呼ばれる細胞内小器官が紡錘体の極として機能し、その数は厳密に2つに制御されている。中心体は、中心小体とそれを取り囲む周辺物質(PCM)から構成され(図B)、M期が始まるとPCMが肥大し、成熟することで極となる。M期キナーゼPolo-like kinase 1 (Plk1)は、この成熟過程に関与し、近年のPlk1標的基質の解析から中心体成熟の制御機構が明らかにされつつある。Plk1のもう一つの重要な役割は、極に微小管をしっかり収束させ正常な紡錘体を形作ることであるが、その分子機構については不明であった。

我々は、Plk1の新たな基質を単離するために固相リン酸化スクリーニングを行い、多数の基質候補分子を同定した。そのうちの一つを、以下に明らかにする理由によりKizuna (Kiz)と命名した。Kizは既知のドメインを持たない新規のタンパク質であり、細胞周期を通して中心体に局在する。HeLa細胞においてKizの発現を抑制したところ、M期の紡錘体形成が著しく乱れ、多数の極を持った多極紡錘体が高頻度で現れた(図C)。多極紡錘体は癌細胞や癌組織で頻繁に見出されており、その原因は中心体数の増加に伴う、極の増加と考えられている。しかし、間期のKiz RNAi細胞では中心体の数に異常は見られなかった。また、中心体成熟に伴うPCMの肥大化も正常であった。ところがM期が進むと、肥大化したPCMが中心小体から解離し、バラバラとなったPCM断片が異所的に極として機能することが、多極紡錘体の原因であった(図D)。この中心体崩壊の原因は、紡錘体形成時に様々なモータータンパク質や微小管の重合・脱重合によって発生する力であり、Kizはその力に対抗し中心体構造を安定化する機能を担っていることが示唆された。

さらに我々は、Kizの379番目のThr残基がM期特異的にPlk1によってリン酸化されることを見出した。このリン酸化部位を変異させたKiz-T379AをKiz RNAi細胞に再導入しても多極紡錘体の生成を抑制できなかった。さらに、リン酸化状態変異体Kiz-T379EはPlk1 RNAi細胞における紡錘体形成の異常を有意に回復させたことから、Plk1はKizをリン酸化することでM期の中心体構造を安定化し、紡錘体の二極性を保障していることが示された。そこで、Kizによる中心体安定化の分子機構の手懸りとして、Kizと相互作用する中心体構成分子の有無を調べた。PCMの主要構成分子であるPericentrinとKizとの会合がM期で顕著になり、さらにT379E変異により結合が強くなることから、Plk1によるリン酸化がPericentrin等の中心体構成タンパク質との会合を調節している可能性が考えられた(図E)。以上の解析から、我々は、Kizが中心小体とPCMまたはPCM同士の“絆”を深めることで紡錘体形成時に中心体に加わる力に対抗し、その安定化に寄与していると結論した。


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Comments in: Dev Cell. 2006, 11:431-432, “Sealed with a Kiz: How Plk1 ensures spindle pole integrity.” by Fry AM & Baxter JE, Nat Cell Biol. 2006, 8:1050-1051, “Kizuna takes pole position.” By Cizmecioqlu O & Hoffmann I, Nat Rev Mol Cell Biol 2006, 7: 706-707, “Mitosis: Give us a kiz” by Flight MH.