IVV法、次世代シークエンサーで信頼性の高いインタラクトーム解析を実現
IVV法、次世代シークエンサーで信頼性の高いインタラクトーム解析を実現
システム生物学や個別化医療において、次世代シークエンサーの性能向上およびコストダウンにより、マルチオミクス解析に基づく様々な学術的な発見や医療現場での診断への展開などが見られるようになって来ています。しかしながら、マルチオミクス解析の1つとして所望されている「タンパク質間相互作用のデータセット(=インタラクトーム)」は、未だ,次世代シークエンサーを有効に活用出来ていないため、カバー率(網羅性)の問題(偽陰性問題)と,インタラクトームデータ自身が抱える信頼性の問題(偽陽性問題)がありました。
今回、東大医科研インタラクトーム医科学部門は、インタラクトームにおける網羅性と信頼性の問題に同時に対処するため、次世代シークエンサー(「Roche 454 Genome Sequencer FLX System (454 sequencer)」)とin vitro virus(IVV)法を組み合わせた方法として「IVV-HITSeq」法を開発しました。本方法では、インシリコ解析で偽陽性を排除することで、世界レベルの信頼性の高いデータを得ることに成功しました。
図1は、3つの主なパートから成るIVV-HiTSeq法の全体像です。
IVV法は、タンパク質とそれに対応するmRNAとを結合させた分子のライブラリを作成し、目的のタンパク質を逆転写PCRとDNA配列決定によって検出することができる方法です。最後のパート(図1下部)は、偽陽性排除のインシリコ解析を行う部分です。ゲノムへマッピングされた配列がどの遺伝子に由来し、それらの配列が各ラウンドで何コピー存在したかを、各配列が持つバーコード情報に基づいて計算することで濃縮の推移を明らかにします。これらの結果から、初期値からの濃縮度合いおよび、ネガティブコントロールに対する差が統計的に有意(フィッシャーの正確確率検定でP<0.001)だったもの以外は偽陽性とします。定量リアルタイムPCRによる事後検証と比較したところ、両者に高い一致率が認められました(正解率88%)。従来のサンガーシークエンサーを用いた方法と比較して、偽陽性を約半分から1割に減少することが出来ました。このことは、数千回相当の定量リアルタイムPCRによる検証を省略できることを意味しています。
今後は、がんをタンパク質の関係性システムとして捉えるため、本ツールを新たなマルチオミクス解析の1つとして活用し、抗がん剤などの刺激に対する「動的インタラクトーム解析」により「がんの個性」をあぶり出し、がんの性質を制御することを目指します。本研究は、資生堂・女性研究者サイエンスグラント賞、および文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究 「システムがん」の支援、また、共同研究企業である富士通(株)、(株)理研ジェネシスなどによる支援を受けて行われました。