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発表論文解説

腸管に存在する新しいIgA抗体産生細胞サブセットの発見

Nature Communications 4, 1772 doi:10.1038/ncomms2718
國澤純1-5, 合田昌史1,2, 橋本えり1, 石川いずみ1, 樋口森生1,6, 鈴木裕二1, 後藤義幸1,5,7, Casandra Panea7, Ivaylo I. Ivanov7, 墨谷莉沙1, Lamichhane Aayam1,2, 和氣太一1,6, 田尻創1,2, 倉島洋介1,5,6, 四方紫織1, 審良静男8, 竹田潔5,9 & 清野宏1-3,5,6
1 東京大学医科学研究所 炎症免疫学分野 2 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカルゲノム専攻 3 東京大学医科学研究所 国際粘膜ワクチン開発研究センター 4 (独)医薬基盤研究所 ワクチンマテリアルプロジェクト 5 CREST, JST 6 東京大学医学系研究科 7 Department of Microbiology and Immunology, Columbia University Medical Center 8 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 自然免疫学研究室 9 大阪大学大学院 医学系研究科 免疫制御学研究室
Microbe-dependent CD11b+ IgA+ plasma cells in early-phase robust intestinal IgA responses in mice

概要
國澤 純博士(独立行政法人 医薬基盤研究所 プロジェクトリーダー、東京大学医科学研究所 客員教授)は、東京大学医科学研究所 清野 宏 教授らの研究グループと共に、腸管での生体防御を担うIgA抗体を高産生する新しい細胞サブセットを同定しました。
飲むワクチンである経口ワクチンが日本においても実用化されるようになってきました。経口ワクチンにおいて生体防御の中核を担うのがIgAと呼ばれる抗体です。腸管組織で産生されたIgA抗体は管腔に分泌された後、病原体や毒素に結合することで感染症の発症を防ぎます。この腸管組織におけるIgA抗体の産生には腸内細菌からの刺激が重要であることが知られていましたが、その実体については未解明な点が多く残されています。
本研究グループは、腸内細菌を持たない無菌マウスや抗生物質で処理したマウスではIgA抗体産生細胞のうちCD11b分子を発現するサブセットが優先的に減少することを見いだしました。抗体産生細胞としての細胞表面マーカーや形態はCD11b分子の発現に関わらず腸管IgA抗体産生細胞は均一の表現型でしたが、CD11b陽性IgA産生細胞は増殖活性やIgA抗体産生能力がCD11b陽性IgA産生細胞に比べ高いこと、腸管免疫誘導リンパ組織であるパイエル板に依存的であることが判明しました。またCD11b陽性IgA産生細胞は経口ワクチンを介した免疫応答において、初期IgA抗体産生の中核を担っていることが示されました。今後はIgA抗体高産生サブセットの誘導を標的とした新しい粘膜ワクチンの開発が期待されます。
本研究は、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの審良静男教授、大阪大学大学院 医学系研究科の竹田潔教授、コロンビア大学 Ivaylo Ivanov助教らの協力を得て行いました。また、科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事CREST、農研機構・生物系特定産業技術研究支援センターBRAIN、科学研究費補助金、厚生労働科学研究費補助金、ヤクルトバイオサイエンス研究財団の支援を受けて行われました。
本研究成果は、英国科学雑誌『Nature Communications』に掲載されます。

研究内容
まず始めに常在細菌を持たない無菌マウスや抗生物質で処理したマウスと通常飼育したマウスの腸管を比較したところ、通常マウスの腸管においてはCD11b分子の発現により陽性細胞と陰性細胞の二つに分類されるIgA抗体産生細胞のうち、無菌マウスや抗生物質処理マウスではCD11b陽性細胞が優性的に減少していました(図1)。また自然免疫に関わる受容体の主要アダプター分子であるMyD88や腸管における免疫誘導組織の一つであるパイエル板を欠損したマウスにおいても、CD11b陽性IgA産生細胞が減少していたことから、CD11b陽性IgA産生細胞は常在細菌由来のシグナルをMyD88依存的に受け取り、かつパイエル板依存的に誘導されるサブセットであることが分かりました。
次にCD11b陽性IgA産生細胞の特異性を解明するために、各細胞の形態や細胞表面での分化マーカーの発現を比較したところ、CD11bの発現に関わらず、腸管に存在するIgA産生細胞は全てこれまで形質細胞として分類されていた表現型を示すことが分かりました。そこで次に各細胞の特異性を解明するためにマイクロアレイ解析を行ったところ、CD11b陰性細胞に比べCD11b陽性IgA産生細胞は細胞周期に関わる分子の発現が高く、また生体内においても細胞増殖活性が高いことを示す結果が得られました(図2)。
機能的な解析として経口ワクチンによるIgA抗体の産生誘導におけるCD11b陽性IgA産生細胞の役割を解析したところ、CD11b陽性IgA産生細胞を優先的に除去したマウスにおいては経口ワクチン投与1週間後に観察されるワクチン抗原特異的IgA抗体の産生が著しく減少していました(図3)。さらにCD11b陽性IgA産生細胞はCD11b陰性サブセットに比べ、IgA抗体の産生能力が高いことが判明しました。
これらの研究結果は、これまで単一の細胞と考えられていた腸管のIgA抗体産生細胞がCD11b分子の発現と機能により二つに分けられ、経口ワクチンによる初期免疫誘導における機能を担うサブセットが存在することを初めて示した結果であり、今後はヒトでの解析を含め、経口ワクチンへの応用を見据えた研究へと展開できることが期待されます。