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発表論文解説

突然変異によって逃げようとするHIVとそれを追いかける免疫の攻防を結晶構造レベルで解明

Scientific Reports 3, 3097; DOI:10.1038/srep03097 (2013).
Akihisa Shimizu1, Ai Kawana-Tachikawa1, Atsushi Yamagata2, Chung Yong Han1, Dayong Zhu1, Yusuke Sato2, Hitomi Nakamura1, Tomohiko Koibuchi1, Jonathan Carlson3, Eric Martin4, Chanson J. Brumme5, Yi Shi6, George F. Gao6, Zabrina L. Brumme4,5, Shuya Fukai2, *Aikichi Iwamoto1
1東京大学医科学研究所、2東京大学放射光連携研究機構/分子細胞生物学研究所、3マイクロソフト研究所、4サイモンフレーザー大学、5ブリティッシュコロンビアHIV/AIDS研究センター、6中国科学院病原微生物・免疫学重点研究室
Structure of TCR and antigen complexes at an immunodominant CTL epitope in HIV-1 infection

研究グループは、日本人のおよそ6割がHLA-A24陽性であることと、そのHLA-A24によって提示されるHIVタンパク質中の10アミノ酸からなるNef134-10エピトープ(RYPLTFGWCF)に注目し、野生型(変異なし)および2種類の変異型(Y135F変異、F139L変異)を対象にした研究を行った。まず、Y135F変異は感染早期に出現する変異であり、HLA-A24陽性HIV感染者間で蔓延している変異型ウイルスであることを再確認した。F139L変異はY135F変異とは異なり一部の感染者間においてのみ検出され、やや遅れて出現する変異であることが確認された。
次に、エピトープとHLA-A24との結晶構造およびTCRとの三者複合体構造の構造解析を行った。その結果、F139L変異はTCRとの結合能が低下することにより生じる変異であることが示唆された。一方Y135F変異では、エピトープとHLA-A24との相互作用が野生型エピトープの場合と異なるものの、TCRはY135F変異型エピトープと正常に相互作用し、変異型エピトープを認識できることが明らかとなった。
以上より本研究ではHIVの野生型、変異型エピトープを提示したHLA-A24分子との結晶構造解析、ならびにTCR分子との三者複合体結晶構造解析を行い、感染者体内で生じているHIVと宿主免疫応答の攻防を再構成した。
HLA-A24陽性者の多い日本人集団において、Y135F変異のような変異型ウイルスはHIV感染者体内で蓄積され続ける。本来ならば宿主免疫応答によるCTLによってウイルスは排除されるはずである。しかしながらY135F変異型ウイルスは細胞内でのウイルス抗原の断片化に影響を及ぼすことでHIVのみに免疫防御反応を起こす(特異的CTLが存在するにも関わらず、その攻撃から逃れてしまうと示唆される。Y135F変異型ウイルスは自身の姿を隠すことでCTLという宿主免疫のレーダーから回避することのできるステルス性を装備したウイルスであると推察され、CTLを誘導するような治療法では、ステルス変異型ウイルスを完全に排除できない可能性が高い。研究グループはこのようなHIVの変異をステルス変異と名付けた。
本研究では、HIVの治療法として、感染細胞内におけるウイルス抗原の断片化を変化させるような新たな治療薬開発の可能性を提案した。今後はさらにステルス変異のメカニズムが明らかになり、HIV感染を治療するための薬の開発につながることが期待される。

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