東京大学医科学研究所

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発表論文解説

ゲノムワイド関連解析によりHCV陽性肝細胞癌の感受性遺伝子を同定

Nature Genetics doi:10.1038/ng.809.
Kumar Vinod 1,2, 加藤直也3, 卜部祐司1, 高橋篤2, 室山良介3, 細野直哉2, 大塚基之4, 建石良介4, 小俣政男4, 中川英刀2, 小池和彦4, 鎌谷直之2, 久保充明2, 中村祐輔1,2 松田浩一1
1東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターゲノムシークエンス解析分野、2理化学研究所ゲノム医科学研究センター、3東京大学医科学研究疾患制御ゲノム医学ユニット、4東京大学大学院医科学研究科消化器内科学
Genome-wide association study identifies a susceptibility locus for HCV-induced hepatocellular carcinoma. Vinod Kumar,Naoya Kato,Yuji Urabe,Atsushi Takahashi,Ryosuke Muroyama,Naoya Hosono,Motoyuki Otsuka,Ryosuke Tateishi,Masao Omata,Hidewaki Nakagawa,Kazuhiko Koike,Naoyuki Kamatani,Michiaki Kubo,Yusuke Nakamura & Koichi Matsuda

肝癌は我が国の癌による死亡原因の第4位を占め、年間3万人以上の方がこの疾患によって亡くなっている。肝癌の原因の約7割はC型肝炎ウイルス(HCV)感染が原因で、現在の感染者の多くは輸血や血液製剤などによって感染している。HCVの感染者は世界全体で1億7千万人、国内にも約200万人存在し、ウイルス感染者の20から30%程度は20-40年程度かけて慢性肝炎から肝硬変・肝癌へと緩徐に進行していく。一方ウイルスに感染しても症状が軽微で推移し、肝癌へと進行しない人も多数存在しており、その違いが何故生じるかについては明らかになっていなかった。今回東京大学医科学研究所(松田浩一准教授、加藤直也特任准教授)、東京大学消化器内科、理化学研究所の共同研究によって、我々は新規の肝癌感受性遺伝子を同定した。HCV陽性肝癌患者721名と健常人2890人について約43万箇所の一塩基多型を比較した。この解析で強い関連を示した8つの一塩基多型について、別の肝癌症例673名、コントロール2596名で検証した結果、MICA(MHC class I polypeptide-related sequence A)遺伝子上の一塩基多型が病気のリスクと強く関連し、リスク型であるAAタイプでは非リスク型(GGタイプ)の約2倍癌になりやすい事が明らかとなった。本研究によって、慢性C型肝炎から肝癌の発症リスクに関係する遺伝子が世界で初めて明らかとなった。

MICAはHCVの感染刺激によって細胞表面で発現上昇して来ることが知られている。免疫細胞の一種であるNK(natural killer)細胞は、細胞表面上にMICAを発現している細胞を攻撃目標として認識し、ウイルス感染細胞を我々の体から駆逐することで健康状態を保つ働きをする。またMICAは一部が血液中に放出されるため、血液検査でMICAの量を調べることが可能である。我々の解析の結果、慢性C型肝炎及び肝癌患者の方では健常人に比べ血中MICAの濃度が上昇していた。また肝癌になり易い遺伝子型を持つ人ではMICAの血中濃度が低いことも明らかとなった。以上の結果より、肝癌になりにくい人では、ウイルス感染によって肝細胞でのMICAの発現が上昇し、この細胞をNK細胞が認識・攻撃することで肝癌の発症を未然に防ぐ働きをする(スライド上)。一方、肝癌になりやすい人ではウイルスに感染してもMICAが上昇せず、NK細胞による防御機構が働かなくなるため発癌のリスクが高くなると考えられた(スライド下)。

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今回の解析の結果より、慢性C型肝炎の患者でMICAの遺伝子型を調べることで、肝癌の発症リスクが予測できることが明らかとなった。慢性C型肝炎の治療薬であるインターフェロンは治療効果が高い反面、様々な副作用も生じる。患者ごとに発癌リスクを予測することで、薬の量や治療期間を設定するなど遺伝子情報を用いた個別化医療が可能となると考えられる。将来的にはMICAの血中濃度測定による肝癌の発症リスク予測や、またMICAの活性を高めることで肝癌の予防・治療への応用が期待できる。