細胞増殖を支配するERK MAPキナーゼ経路の新たな制御機構を解明
細胞増殖を支配するERK MAPキナーゼ経路の新たな制御機構を解明
休止状態にある細胞にEGF(表皮細胞増殖因子)などが作用すると、再び増殖が始まります。この応答をつかさどっているのが、細胞表面の増殖因子受容体が発した信号を細胞質にあるERK(MAPキナーゼ)を通じて核へと伝える細胞内情報伝達経路、すなわちERK経路です。ERK経路では、まず増殖因子の受容体への結合により受容体のチロシンキナーゼが活性化し、その結果としてRasが不活性なGDP結合型から活性のあるGTP結合型へと変換されます。Ras-GTPはRafキナーゼに結合してRafを活性化し、そのRafが、MEK1あるいはMEK2を、リン酸化することで活性化します。次に、活性化したMEK1/MEK2が、ERKを、リン酸化することで活性化します。最後に、活性化したERKは細胞質および細胞核内の数多くの基質タンパク質をリン酸化し、細胞周期や細胞増殖を調節します。
このERK経路が何らかの理由で異常に活性化すると、本来なら増殖すべきではない細胞が分裂を開始します。実際に、EGF受容体、Ras、Rafなどの活性化型変異が数多くの癌で見つかっていることからも、ERK経路の制御異常が細胞癌化の一因となっていることがわかります。したがって、ERK経路は、細胞増殖が必要なときには迅速に活性化する一方で、必要がないときには緊密に抑制されている必要があります。そのため、ERK経路には何重もの抑制的制御機構が知られています。
本論文では、ユビキチン様タンパク質SUMO(Small ubiquitin-related modifier)によってMEKが修飾されること、さらにその結果MEKとEKRとの結合が阻害され、ERK経路の活性化が抑制されることを見いだしました。また、Rafキナーゼの活性化因子であるRasがMEK1/MEK2のSUMO化修飾反応を阻害することも見いだしました(図a)。
すなわち、Rasは、Rafを活性化すると同時にMEK1/MEK2の不活性化を阻止するという二重の機構でERK経路の活性化を促進することがわかりました(図b)。このように、今までまったく知られていなかったMEKのSUMO化という現象を見いだしてその制御機構を解明し、さらにその生理的意義をも詳細に明らかにしたものです。
本研究の成果は、MEKK1によるMEK1/2のSUMO化反応を促進したりRasによるSUMO化阻止を阻害したりすることで、ERK経路の活性を抑制するという可能性を示しています。この現象を利用したあらたな癌治療薬開発も期待されます。