東京大学医科学研究所

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発表論文解説

筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する新たな治療概念の実証―神経筋接合部の形成増強によるALSモデルマウスの病態改善と延命―

EMBO Molecular Medicine (2017 年5月10日オンライン掲載予定) DOI 番号:10.15252/emmm.201607298
Sadanori Miyoshi, Tohru Tezuka, Sumimasa Arimura, Taro Tomono, Takashi Okada and Yuji Yamanashi
DOK7 gene therapy enhances motor activity and life span in ALS model mice

私たちの運動機能には、運動神経を介した骨格筋収縮の緻密な制御が必要です。神経筋接合 部(NMJ)は運動神経と骨格筋を結ぶ唯一の「絆」(神経筋シナプス)であり、その喪失は呼吸を含めた運動機能の喪失を意味します。東京大学医科学研究所の山梨裕司教授らの研究グループは、これまでにNMJ の形成に必須のタンパク質としてDok-7 を、また、そのヒト遺伝子(DOK7)の異常による劣性遺伝病としてNMJ の形成不全を呈するDOK7 型筋無力症を発見しています。さらに、研究グループは、マウスを用いた実験から、DOK7 発現ベクターの投与によりNMJ を後天的に拡張できることを確認し、また、DOK7 型筋無力症を発症したマウスや筋ジストロフィーの一種を発症したマウスへの投与によりそれらの運動機能が改善され、生存期間が延長されることを実証していました。一方、これらの筋原性疾患に加え、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に代表される運動神経変性疾患においても、その初期病態としてNMJ での運動神経軸索末端の萎縮や脱離(NMJ 変性)が注目されていました。しかしながら、その治療標的としての可能性については未解明でした。
研究グループは運動機能の低下を示したALS モデルマウスにDOK7 発現ベクターを投与することにより、1)NMJ 変性の抑制、2)筋萎縮の抑制、3)運動機能の改善、4)生存期間の延長、を実証しました。
本研究の成果として、本学で開発したNMJ 形成増強治療が、根本的な治療法のないALS に対する新たな治療概念となり得ることが実証されました。さらに、本成果はALS を筆頭に、NMJ 形成不全との関連が解き明かされつつある他の運動神経変性疾患や加齢性の筋萎縮に対する治療法の開発にもつながることが期待されます。
本研究は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構の難治性疾患実用化研究事業および橋 渡し研究加速ネットワークプログラム、文部科学省科学研究費補助金などの助成を受けて実施 されました。