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研究内容


当研究室では、より効果的なワクチン開発に役立てることを目的として、生体によるウイルス認識機構、インフルエンザウイルス感染モデルを用いた粘膜免疫制御機構と腸内細菌によるウイルス特異的免疫応答の制御機構について研究を行っております。

研究内容
発表論文解説

研究内容

1) 生体によるウイルス認識機構について
 小さなゴミやほこりが鼻の穴に入ってきても熱は出ませんが、目には見えないインフルエンザウイルス(〜100 nm)が鼻に感染すると熱が出ます。つまり鼻の穴の細胞は、目でも見えない小さな"ゴミ"と"ウイルス"の侵入を見分けているわけです。これは私たちの体に外敵の侵入を感知するセンサーが備わっているからです。インフルエンザウイルスを例に挙げると、エンドゾーム内(細胞外)にはToll-like receptor 7/8があり、これがインフルエンザウイルスゲノムRNAを認識しています。インフルエンザウイルスが侵入したとしても、細胞質中にはRIG-Iが待ち構えていてウイルスRNAを認識します。つまり生体は、ウイルス核酸(ゲノムRNA)の有無を見分けることで、ウイルスの侵入とその他のゴミを巧みに見分けているわけです。


 このようなウイルスRNAに依存的なウイルス検出システムだけではなく、生体はウイルスが持つイオンチャネルタンパク質(viroporinと呼ばれる)の活性を、ウイルスの検出システムに利用していることが最近になってわかってきました。インフルエンザウイルスの場合、プロトン選択的なイオンチャネルタンパク質(M2タンパク質)は、NLRP3 inflammasomeを活性化させています(Ichinohe et al. Nat Immunol. 2010)。また脳心筋炎ウイルスの2Bタンパク質は、小胞体やゴルジ体で高く保たれているカルシウムイオンを細胞質中に流出させて、NLRP3 inflammasomeを活性化させています(Ito et al. PLoS Pathog. 2012)。同様にTriantafilouらは、human respiratory syncytial virus(RSウイルス)のviroporin SHが、inflammasomeの活性化に関与していることを示しています(Triantafilou et al. Thorax. 2013)。

 上図のように、inflammasomeの活性化は、caspase-1の活性化を引き起こします。活性化caspase-1は、細胞質中の未成熟型サイトカインであるpro-IL-1β, pro-IL-18を切断し成熟化させ、それらの細胞外への分泌を促進させます。マウスを用いた実験では、インフルエンザウイルス感染による肺でのinflammasomeの活性化とIL-1βの分泌は、インフルエンザウイルス特異的免疫応答の誘導に必要であることが分かりました(Ichinohe et al. J Exp Med. 2009, Pang et al. Nat Immunol. 2013)。このようなことから、私たちの研究室では、ウイルス感染症に対するより効果的なワクチンの開発へ役立てることを目標に、生体によるウイルス認識機構について研究を進めております。

日本経済新聞2013年10月22日付(高熱起こす炎症解明)
(日本経済新聞社が記事利用を承諾しています。許諾番号30037956)



2) 腸内細菌によるインフルエンザウイルス特異的免疫応答の制御について
 抗生物質を飲ませて腸内細菌を減らしたマウスでは、インフルエンザウイルス感染後の免疫応答が弱くなることを見出しました(Ichinohe et al. PNAS 2011)。ある種の腸内細菌は、距離的に遠く離れている肺へシグナルを送り、インフルエンザウイルス感染によるinflammasomeの活性化をサポートしていたわけです。数百〜数千種類いる腸内細菌のうち、どの腸内細菌がこのようなシグナルを送っているのか?またこの腸管から肺へ伝達されるシグナルは何なのかはいまだに分かっておりません。私たちの研究室では、これらの疑問を明らかにするため研究を続けております。





プレスリリース(Ichinohe et al. PNAS 2011)


科学新聞2011年4月8日付(腸内細菌の新たな役割解明)

(科学新聞社が記事転載を許可しています)


日本経済新聞2013年2月17日付(免疫力って何?)
(日本経済新聞社が記事利用を承諾しています。許諾番号30026016)


日本経済新聞2014年4月3日付(腸内環境整え免疫力アップ)
(日本経済新聞社が記事利用を承諾しています。許諾番号30033668)


代ゼミジャーナル「夢のクスリ」新しいウイルス認識機構の発見
(代々木ゼミナールが転載を許可しています)


発表論文解説


Moriyama M, Igarashi M, Koshiba T, Irie T, Takada A, Ichinohe T. Two conserved amino acids within the NSs of SFTS phlebovirus are essential for anti-interferon activity. J Virol. 2018 in press.
 重症熱性血小板減少症候群(Severe fever with thrombocytopenia syndrome, SFTS)ウイルスは、2011年に中国の研究者らによって発見された新しいウイルスです(Yu et al. N Engl J Med. 2011)。日本でも2013年ごろから西日本を中心に感染者が確認されています。SFTSウイルスの主な感染経路は、森林や草地に生息するマダニを介したものですが、最近では衰弱した野良猫を介抱しようとした女性が、猫に噛まれてSFTSを発症し死亡したというニュースが大きな話題となりました。SFTSに感染した際の致死率は10〜30%とされており、日本における死亡者はすべて50歳代以上で、高齢者が重症化しやすいと考えられています。2013年から2018年6月までに日本国内でも約350人の患者が報告されていますが、これまでのところSFTSウイルスに対する有効な治療薬はなく対症療法しかありません。
 マウスを用いた研究では、I型インターフェロン(IFN)受容体欠損マウスが重症のSFTS様症状を呈することから(Liu et al. J Virol. 2014)、SFTSウイルスに対する感染防御には宿主のIFN応答が重要であると考えられています。しかしSFTSウイルスの非構造タンパク質であるNSsタンパク質が、細胞質中に特徴的なの封入体構造を形成してその中に自然免疫関連タンパク質(TBK1など)を隔離することにより(図A)、宿主のIFN応答を抑制することでウイルスの増殖に有利な環境をつくりだしています(Wu et al. J Virol. 2014, Santiago et al. J Virol. 2014)。本研究では、SFTSウイルスのNSsタンパク質が宿主のIFN応答を抑制するのに必要な機能ドメインを同定することを目的に実験をスタートさせました。するとNSsタンパク質中でβシートを形成すると予測された21番目のバリンと23番目のロイシンが、NSsとTBK1との相互作用および宿主のIFN応答の抑制に必須であることが明らかとなりました(図B)。さらにNSsタンパク質は、TBK1のキナーゼドメイン(N末端から307番目までのアミノ酸)と相互作用して、宿主のIFN応答に必要なTBK1のリン酸化を抑制していることを明らかにしました。これまでSFTSウイルスのNSsタンパク質によるIFN応答の抑制には、NSsが形成する細胞内の封入体構造が必要であると考えられていましたが、今回、NSsタンパク質によるこの封入体形成はIFN応答の抑制には必ずしも必要ではなく、TBK1との相互作用そのものが必要であることが明らかとなりました(封入体構造を形成しないNSsの変異体でもTBK1と相互作用することができれば宿主のIFN応答を抑制できた)。本研究成果は、SFTSウイルスに対する新しい治療薬の開発やSFTSウイルスの病原性を理解するのに役立つ極めて重要な知見であると言えます。



Moriyama M, Chino S, Ichinohe T. Consecutive inoculations of influenza virus vaccine and poly(I:C) protects mice against homologous and heterologous virus challenge. Vaccine. 2017 Feb 15;35(7):1001-1007..
インフルエンザに罹患すると変異ウイルスに対しても有効な鼻粘膜上の粘膜免疫応答(ウイルス特異的なIgA抗体)が誘導されます。従って、効果的なインフルエンザワクチンの開発には、鼻粘膜上におけるインフルエンザウイルスの感染を模倣(マネ)することが必要です。今回、我々はインフルエンザウイルスがマウスの鼻粘膜で増殖する場合、ウイルス量のピークが感染5日目までであることに着目しました(図A)。そこでインフルエンザワクチンとウイルスRNAを模倣した二本鎖RNAを混ぜて、5日間連続でマウスに経鼻投与すると(図B)、実際にインフルエンザウイルスに感染したときと同じような鼻粘膜上のウイルス特異的なIgA抗体が誘導されることが明らかとなりました。このウイルス特異的な鼻粘膜上のIgA抗体は、ワクチン接種から少なくとも半年間持続することも分かりました。ワクチン接種を受けたマウスは、ワクチンと同じ型のウイルスだけでなく、変異ウイルスに対しても感染防御効果を示します(図C)。これらの成果は、私たちが免疫を持っていない新しいウイルス(流行の予測が困難な新型インフルエンザウイルスやワクチンを受けたことがない小児にとっては毎年流行するインフルエンザウイルス)に対して、迅速かつ効率よく防御免疫を誘導するワクチンの開発に役立つ可能性があります。




Moriyama M, Chen IY, Kawaguchi A, Koshiba T, Nagata K, Takeyama H, Hasegawa H, Ichinohe T. The RNA- and TRIM25-binding domains of influenza virus NS1 protein are essential for suppression of NLRP3 inflammasome-mediated IL-1β secretion. J Virol. 2016 Mar 28;90(8):4105-14.
 インフルエンザウイルスのM2タンパク質は、トランスゴルジ中のH+を細胞質中へ流出させることにより、細胞質中の自然免疫受容体であるNLRP3 inflammasomeを活性化させています(図の赤矢印、Ichinohe et al. Nat Immunol. 2010)。またRIG-I経路によるインターフェロン応答はNLRP3 inflammasomeの活性化を増大させているという報告もあります(図の青矢印、Pothlichet et al. PLoS Pathog. 2013)。このようなインフルエンザウイルス感染によるinflammasomeの活性化とIL-1βの分泌は、感染局所の炎症反応だけでなく、その後のウイルス特異的な免疫応答に必要です(Ichinohe et al. J Exp Med. 2009, Pang et al. Nat Immunol. 2013)。今回、インフルエンザウイルスのNS1タンパク質がNLRP3と相互作用することにより、NLRP3 inflammasomeの活性化とそれに続くIL-1βの産生を抑制していることを明らかにしました。この抑制効果には、RNA結合ドメイン(38番目のアルギニンと41番目のリシン)と、TRIM25結合ドメイン(96, 97番目のグルタミン酸)が必要であったことから、ウイルスRNAによるNLRP3 inflammasomeの活性化経路(青矢印)にもこのNS1タンパク質が大きく関与していることが明らかとなりました。本研究成果は、インフルエンザウイルスの病原性を理解するのにとても重要です。



Ichinohe T, Yamazaki T, Koshiba T, Yanagi Y. Mitochondrial protein mitofusin 2 is required for NLRP3 inflammasome activation after RNA virus infection. Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Oct 29;110(44):17963-8.
 インフルエンザウイルスが細胞に感染すると、細胞内のタンパク質複合体であるNLRP3 inflammasomeが活性化して炎症反応を引き起こします。この炎症反応はインフルエンザウイルス特異的免疫応答の誘導に必要です。今回、インフルエンザウイルスが感染すると細胞内のNLRP3が、ミトコンドリアの外膜タンパク質であるmitofusin 2(Mfn2)に結合することを明らかにしました。このNLRP3とMfn2の結合は、ミトコンドリアの膜電位(ミトコンドリア内膜における局所的な電気的勾配)に依存的で、インフルエンザウイルス感染によるNLRP3 inflammsomeの活性化と炎症誘発性サイトカイン(IL-1β)の産生に必要でした。このことは、ウイルス感染後の過剰な炎症を抑えるような治療薬の開発、または炎症を起こさせることによりインフルエンザワクチンの効果を高めるような物質(アジュバント)の開発に役立つと期待されます。


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