メッセージ

教授 清野 宏
e-mail:kiyono@ims.u-tokyo.ac.jp

昨年は、第42回日本免疫学会学術集 会主催という大役をいただきましたが、皆様のご協力のもと無事成功させることが出来ました。本学術集会では、日本から世界に向けて、 免疫学に関連する最新情報発信と交流を目指す第一歩として、学術集会において抄録をはじめとしてすべてのセッションで英語公用語 化導入を試みました。得られた成果を国内のみならず世界中の人々に知ってもらうためには、グローバル共通言語である英語での発信と交 流が必要不可欠であり、私たちは、得られた成果をグローバルに応用することを常に意識して研究に取り組んでいかねばなりません。

数年前から私たちは、Alcaligenesをはじめとした腸内細菌による「細胞内・組織内共 生」という腸内細菌とホストの新たな相互作用の様式であるという概念を提唱すべく(Proc. Natl. Acad. Sci. 2010)、免疫学と細菌学とを融合させたアプローチを行っています。 近年成果の一部として, 腸内細菌の一種であるAlcaligenesという菌種が自然免疫に関与していることをペンシルバニア大学のDavid Artisらのとの共同研究で明らかにすることが できました(Science 2012)。

また、本研究室の創成期から、粘膜免疫を基盤とした次世代ワクチン開発「MucoRice」プロジェクトとして、 植物発現系を応用した冷蔵保存不要・注射針不要なコメ型経口ワクチンの開発を目指して取り組んでいます。コメに発現したワクチン抗原 はコメ内部に存在する難溶性の蛋白貯蔵体と呼ばれる部位に蓄積することで消化耐性をもっており、小腸のパイエル板に代表される粘膜免 疫誘導組織まで分解されることなく送達されることがわかっています。コレラ菌に対するワクチンとしてコレラ毒素の一部(CT-B)をコメ に発現させたコメ型経口ワクチン(MucoRiceTM-CTB)は、動物実験から、コレラによる下痢に対して高い予防効果を示すことが明らかとな りましたく(Proc. Natl. Acad. Sci. 2007)。そして、昨年1月より、コメ型経口ワクチンの医師主導型 臨床試験が当研究所病院で始まりました。幸助教が牽引する「MucoRice」プロジェクトチームの努力が実り、基礎研究が大きく飛躍し臨床 へとつながる一歩手前までついに来ることができました。

基礎医学プロジェクトの一つであるMucoEnvironmentからは、食物成分である葉酸が腸管粘膜免疫の恒常性の維 持に重要であるという知見を得ることができましたく(PLos One 2012)。これは食餌性成分が直接的に腸管の免疫 細胞に働きかけるという「食による免疫調節作用」を示す興味深い例と言えます。粘膜マスト細胞の機能解析プロジェクトにおいては、倉島助教が中心となり炎症性腸疾患の増悪化機序の一つが明らかとなりました。1970年代の論文で腸 炎患者の腸管組織中に、活性化状態のマスト細胞が頻繁に観察されることが報告されていましたが、本研究ではマスト細胞の活性化の仕組 みとその役割を分子・個体レベルで明らかにすることができました(Nat. Commun. 2012)。今後は炎症性疾患 における免疫細胞群の役割を紐解き、新たな疾患予防治療法の確立を目指そうとしています。

さらに、パイエル板を覆う上皮細胞中に存在し、抗原取り込みに特化した特殊な上皮細胞であるM 細胞に着目した「M cellプロジェクト」は、現在佐藤助教を中心として解析を進めており、昨年は前述のAlcaligenesがM細胞を介して取り込まれている ことや、Spi-Bと呼ばれる転写因子がM 細胞のマスターレギュレーターの一つではありますが、それ以外のM細胞特異的レギュレーターの存 在を示唆しましたくく(Mucosal Immunol. 2012)。Spi-Bを欠損したマウスではほとんどのM細胞が欠失しています が、パイエル板内には野生型と同程度のAlcaligenesが存在しており、このことは病原菌と共生細菌とではその取り込み様式が異なることを 示唆する興味深い結果であります。

そして私たちは、研究成果の発信だけではなく、将来的にさらなる研究成果を生み出す「若手研究者の育成」にも力を入れています。2011 年には日本学術振興会特別研究員2名(PD1名、DC1名)、翌年度にはDC2名が新たに採用され成果を上げています。また、MucoEnvironmentを約10年間当研究室で牽引してきた國澤純准教授が、独立行政法人医薬基盤研究所の創薬基盤研究 部ワクチンマテリアルプロジェクトのグループリーダーとして、2013年1月から独立を果たしました。 加えて, 当研究室の卒業生たちも、アメリカ(例、Colombia University, The University of North Carolina), やヨーロッパ(例、Pasteur Institute)などの研究室でそれぞれ活躍をしているという嬉しい報告を受けています。このように、 当研究室で培った研究基盤や研究理念(私たちはこれをTMP FREEDOMの精神と呼びます。この詳しい意味については、本ホームページのFREEDOMの精神を見て下さい。)をもとに、より高みを目指し羽ばたいていく卒業生たちの姿を見られるのは、大変喜ばし い限りであり、今年も継続的に次世代を担う研究者を輩出することを目指しています。

本年も、さらなる飛躍を目指し、より多くの成果を挙げられるように弛まぬ努力を続けるつもりです。引き続き皆さまからのご指導・ご協力をいただきたくお願い 申し上げます。

また、我々とともに粘膜免疫学の神秘に触れ、そしてそれを解き明かしながら、新しい病気の予防。治療法の開発研究も試みてみたいと思われる 方は、是非研究室にいらしてください。いつでもお待ちしています。