Research/Mol.Dev.Biol.

研究紹介

私達の研究室では網膜の発生、再生研究を行っています。
私達の研究室では網膜、脳腫瘍を主要なテーマとして研究を行っています。研究の背景には、渡辺すみ子が新井賢一先生の教室で大学院時代から10年かん研究を行ったサイトカインと血液細胞の増殖分化研究の知識と技術があります。サイトカインは、幹細胞、ニッチといった概念を創出、証明し、シグナル伝達、がんの研究の常に第一線を行く研究分野です。網膜、脳腫瘍の分野にも、表面抗原とセルソーターを中心とした技術と知見を応用し、発生、病態、治療戦略に細胞系譜特異的なシグナル制御、中枢神経における免疫的環境の役割の視点から取り組んでいます。。

以下に個々のプロジェクトについて紹介します:
目次
1. 網膜発生と維持にかかわる分子メカニズムの研究

2. 網膜の再生における転写因子の役割についての基礎研究
3. 網膜視細胞変性症の病態とその発症と進展の分子基盤の解析(マイクログリアの役割)
4. ゲノム編集技術を用いた遺伝子治療モデルの確立

1. 網膜発生と維持に係わる分子メカニズムの研究:

網膜の発生メカニズムについて、網膜分化の細胞系譜の決定を表面抗原を用いて行う、という戦略で初期の約10年間研究を行い、網膜細胞を表面抗原とセルソーターで分離し、それぞれの分子sigunatureを明らかにしてきました。特に転写因子の細胞系譜特異的な役割を研究してきましたが、この数年はヒストンメチル化の役割りについての研究を集中して行っています。これまでヒストンH3K4me3に加え、転写に抑制的にはたらくH3K27me3の役割についてメチレース、デメチレースのノックアウトマウスの網膜発生を詳細に検討し、その細胞系列特異的な役割を明らかにしてきました。さらにH3K36のメチル化にも着目し、網膜の各亜集団が共通のプロジェニター細胞から分化する過程におけるヒストン修飾の役割を検討しています。この研究には、網膜の組織培養系(retinal explant culture)、in vivo electroporation、種々のモデルマウス、さらにはヒトの系としてiPS細胞などを主なるモデル系として使っています。


2. 網膜の再生における転写因子の役割についての基礎研究:

網膜再生の研究として網膜内グリア細胞であるミューラーグリアに注目しています。ゼブラフィッシュでは、網膜変性時にミューラーグリアが脱分化し、神経脂肪へ分化することが知られていますが、マウスでは報告により様々で、一般的にはそのようなことは起こりにくいと考えられています。網膜変性時における哺乳類でのミューラーグリアの脱分化、神経細胞への分化を人為的に誘導し、その分子メカニズムを明らかにすることを目標として、種々の転写因子を様々な組み合わせでマウス網膜ミューラーグリアに導入し、これによる神経細胞への再生を目標として研究を進めています。

3. 網膜視細胞変性症の病態とその発症と進展の分子基盤の解析(マイクログリアの役割):


視細胞変性症に着目し、その発症、進展の分子基盤を明らかにし、治療戦略の手がかりを得ることを目標に研究を進めています。網膜色素変性症特異的iPS細胞を樹立し、これを網膜に分化させることにより、病態初期の変化を捉え、疾患の発症と進展のメカニズムを研究し、さらに化合物、サイトカインなどのスクリーングを行える系を樹立することで、創薬のプラットフォームをつくることをめざした研究を行っています。網膜色素変性症などの遺伝性疾患を始め網膜の変性症は加齢とともに発症率が上がっていきます。私たちは加齢の実態を、眼球内の免疫学的環境の変容による持続的な弱い炎症の影響と仮定して中枢神経特異的なマクロファージ様の細胞であるマイクログリアに着目し、骨髄移植を施したマウスを利用して眼球内のマイクログリアの実態の同定に世界で初めて成功しました。様々な視細胞変性マウスモデルを用いその病態の発症から進展に伴う時間軸、空間軸においてマイクログリアの役割がどのように変化するのか、またマイクログリア自身の老化が眼内にどのような影響を与えるのか分子基盤を明らかにすることを目標に研究を進めています。

4. ゲノム編集技術を用いた遺伝子治療モデルの確立:

視細胞変性(色素変性症)に対するCRISPR/Cas9システムを使った遺伝子治療モデルの開発網膜、網膜色素細胞への迅速な分化の系の立ち上げも行っています。これまでに海外ではアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を用いた遺伝子補充療法の臨床試験が実施中ですが、一方、常染色体優性遺伝の例で、変異遺伝子が優勢阻害を示す場合は遺伝子補充療法の効果は期待できず、また遺伝子サイズが巨大でAAVには適用できない例も多数存在する。網膜が遺伝子治療の標的臓器として適していながら、こうした問題、良い評価系がない事が課題であったため、私たちはゲノム編集技術を用いた遺伝子治療の戦略の確立を目的として、汎用性の高いベクター構築プロトコールの確立から、その治療効果の評価までの一連のプラットフォームを作ることを目指し研究を行っています。