Daigakuinn information/Mol.Dev.Biol.

東京大学医科学研究所基礎医科学大部門再生基礎医科学寄付研究部門
Department of Molecular and Developmental Biology
渡辺すみ子(特任教授)、佐藤伸哉(特任助教)、高祖秀登(特任助教)
博士課程:医学系研究科分子細胞生物学専攻(修士課程:新領域メディカルゲノム専攻)
連絡先 渡辺すみ子 電話03-5449-5663、5660、sumiko@以下はims.u-tokyo.ac.jp
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/moldev/

私達は網膜を主なる材料に組織幹細胞を軸に、組織の発生、再生、さらにがんのメカニズムを研究しています。
iPS細胞から血液細胞(樹状細胞)への分化、iPS特異的microRNAの研究を行なっています。

血液のシグナル伝達から網膜発生・再生研究へ私達の研究グループでは新井賢一教授時代に血液細胞のシグナル伝達と多能性血液細胞の自己複製と分化について、
研究を展開してきました。2000年より幹細胞制御とその環境シグナルとの相互作用について中枢神経系で研究を展開するために網膜の発生・再生の研究系を
立ち上げました。血液と網膜は一見異なる系に思われますが、二つの系の共通性と特異性の解析に新たな地平を開拓し、切り札となる研究を展開することを
目標にしています。さらにiPS細胞の研究を本格的にはじめ、幹細胞からの組織分化のメカニズムを明らかにします。

幹細胞、シグナル伝達、転写、発生学、再生医学とそのメカニズムに興味のあるチャレンジ精神にあふれた学生諸君の参加を歓迎します。

網膜の発生・再生研究は発生学的研究材料として非常に興味深いのみならず、再生医療の標的臓器としても重要です。神経科学としてのおもしろさもあります。
眼はいわば「精密機械」であり、この形成の過程の制御機構の解明はまだまだ遅れています。
また網膜は中枢神経そのものですので、神経科学的アプローチも重要な研究の手段となります。
再生研究の重要性:世界の総失明者は約5千万人。我が国では約31万人の失明者がおり、このうち30%は網膜の疾患によるものです。眼がみえるようになる、
という事に少しでも貢献していきたいと考えています。私達は血液細胞分化制御シグナルの研究の背景を生かし、この重要課題を様々な研究材料や技術を自在に
扱いながら取り組んでいます。

私達の研究グループは
血液学の技術と知識を応用、共有し幹細胞共通のメカニズム、特異的なメカニズムを明らかにする:血液学は組織幹細胞の概念を提唱し、
その実体を明らかにしました。この技術と知識を最大限に生かし網膜幹細胞とその後の分化過程、そしてそのシグナル、転写制御機構をあきらかに
しようとしています。またiPS細胞からの網膜、血液分化にこれらの知見を利用します。
様々なモデル動物を自由に使う:ゼブラフィッシュ、ノックアウト、トランスジェニックマウスなどの遺伝子操作マウス、さらに小型の猿である
コモンマーモセットを用いて霊長類研究をスタートしました。
臨床応用をめざしたヒトの系の導入:2008年より、眼科学教室などとの共同研究により臨床サンプルの解析をスタートし、また末梢血を使用した
実験もおこない、臨床応用を常に見据えた研究を行なっています。
iPS細胞研究:iPS細胞に特異的なmicroRNAを同定し、microRNAのiPS作成、未分化性維持における役割を検討し、また網膜分化でのmicroRNAの役割を明らかにすることにより、その利用をその生理的意義を検討しています。
このように細胞株などをもちいたシグナル伝達、転写制御などの分生生物学的研究から、マウス個体、ゼブラフィッシュに至るまでの様々な系の特徴を
理解し、これらを自在に扱うことで立体的な研究を展開し、最終的にヒトへの臨床応用をめざすことが私達の研究室の特徴であり目標です。

研究室の方針と特徴
おのおののプロジェクトは互いに有機的に結びつき、それぞれの研究員の成果や実験系を互いに利用しあうことで、全体として眼の発生と再生をめざす
研究チームを構成したいと考えています。
研究室を訪問されたすべての方がおっしゃられる印象は「明るくてなごやか」というものです。お互いの競争心をばねに展開する研究ももちろん大事ですが
ラボのなかでは研究員全員がオープンに議論を重ね協力しながら相乗的な力を出し合うことが重要です。
1995年に博士の学位を取得した渡辺すみ子を「長老」にラボは年齢、経験ともかなり若手で固めた構成になっています。これはある意味欠点でもありますが、
既存のわくにとらわれずfreshな発想と力で頑張っていこうというラボの特徴でもあります。
海外からの来客が研究室には多数おとずれます。セミナーのみならず個人的なDiscussion、会食などで英語での議論の練習機会を沢山もちます。
これらのチャンスを生かすのは自分自身の積極性です。
国際性: 本年4月からマレーシア、シンガポールから学生がくわわりました。
いずれも英語が非常に堪能なので、日本人学生、スタッフは英語によるDiscussionの力をつけようとみんなでがんばっています。

研究と指導の方針
博士課程の学生は4年間の研究の過程で論文をだすまでの過程と技術を確実に学ぶことで、学位取得後いかなる場所でどのような研究テーマを選択しても
自分自身で研究を推進できる力をやしないます。
修士課程の学生、学部の学生は先輩のお手伝いをするのではなく、小さくても自分自身のテーマを持ち、これについて確実な技術を学び、
着実なデータの積み上げをおこなう事を第一の目標にします。

論文投稿:それぞれの仕事は自分自身の論文にまとめて投稿します。どんなに小さな論文でも間違いのないデータを論理的につみあげ、きちんと説明し、
充分な議論をつくす論文作成の過程はとても骨の折れる仕事であると同時に重要な経験となります。博士課程の卒業者で自分が筆頭著者の論文のない方は
これまでひとりもいません。

Open mindとDevotion:研究室の中では細胞、マウス、ゼブラフィッシュなどの異なる研究材料を用いた研究テーマが常時動いています。
研究員がお互いのデータや知識を自由に交換し、議論することを重要視しています。そして研究をすると決めたからには力を尽くしてがんばって
研究に集中すること。これがDevotionです。この2点は新井賢一先生時代よりうけついでいる重要な研究の姿勢です。

現在の構成員:学生、研究員はPh.Dタイプの基礎研究者を中心に、医師、歯科医師も加わり、臨床応用の視点をみすえた基礎研究を目指しています。
スタッフは、教授、助教、加えてポスドクが数名います。縦割りのグループ構成をせずに大きなひとつのチームとして研究を展開しています。

共同研究:研究を幅広く展開し、各々の視野を広げるために医科研内外の研究室と積極的に共同研究を展開しています。現在の主な共同研究先は、
医科研幹細胞治療中内研究室、自治医科大学間野教授グループ、東大先端研、アメリカテキサス大学などです。また臨床応用の研究は私達ではできるものでは
ありません。眼科学教室と連携をはかりながら研究を進めています。

テニス!!:金曜日の夕方は研究室の隣のコートでテニスをしている事が多いです。テニスの好きな方、テニスをはじめてみたい方、歓迎です。
研究内容とこれまでの成果:眼の発生・再生研究 
マウス、ゼブラフィッシュ発生工学による個体解析により得られる情報について現象論にとどまらず分子生物学、生化学的研究により制御のメカニズムに
ついてまで明らかにすることを目標としています。

研究の主な柱は

網膜正常発生の機構の解明:マウス、ゼブラフィッシュを主な材料に網膜発生にかかわる新規遺伝子の単離、シグナル制御のメカニズムを中心に研究を
展開しています。主にマウスの網膜の器官培養に遺伝子導入あるいは遺伝子発現抑制をウイルスやトランスフェクションで行い、細胞の分化増殖への影響を
観察しています。遺伝子単離にはプロテオミクス、microarray, ChIP-on-Chip, ChIP-sequenceなどの最新の技術も利用しています。また網膜特異的
遺伝子のプロモーターを単離し、その制御機構をエピジェネティカルな制御も含め検討しています。

核内受容体の網膜発生における役割の解析:転写因子である核内受容体群が網膜でユニークな発現をしていることをみいだし、その機能解析を行なっています。
特にCOUP-TF核内受容体に着目し、転写抑制機構、エピジェネティックな機構などの分子メカニズムを検討しています。マウスの網膜を主体に培養細胞も用います。

網膜幹細胞の単離とシグナル制御:幹細胞学の最も進んだ血液学で蓄積したノウハウを網膜幹細胞の単離に応用しています。具体的にはセルソーターを用いて
網膜細胞を亜集団に分画し、その増殖能、分化能を検討し、網膜細胞系譜の決定と幹細胞の単離にとりくんでいます。マウス、サルの網膜での知見を蓄積しています。

iPS細胞特異的なmicroRNAの単離とその機能解析:東大のiPS細胞研究グループに所属し、自治医科大学間野教授とiPS細胞特異的microRNAの検索とその機能解析を
行なっています。一方、ゼブラフィッシュの各発生段階におけるmicroRNAの発現パターンを解析し、初期胚から分化を重ねていく段階でのmicroRNAの役割を検討しています。

樹状細胞の研究:白血球のひとつである樹状細胞はがんの免疫療法で注目されている細胞です。新井賢一先生のグループ、アメリカ、中国のグループなどとの
共同で信頼性の高い免疫療法のプロトコール作りをめざして基礎研究をおこなっています。iPS細胞からの樹状細胞の分化にも成功致しました。

これまでの具体的な成果
 

マウスモデルを主に用いた研究
網膜幹細胞の探索と細胞系譜の決定
:マウスの網膜をCD抗原を指標にセルソーターをもちいて分画し、より未分化な網膜集団の同定を行なった。
これまでSSEA-1,c-kit抗原が未分化な網膜の、CD44がグリア細胞前駆細胞の良い指標となることを見いだした。 またCD73分子が視細胞前駆細胞の
マーカーとなることを見いだし、細胞移植による再生医療の重要なツールになることが期待されています。
Koso, H., et al. (2006) SSEA-1 marks regionally restricted immature subpopulations of embryonic retinal progenitor cells
that are regulated by the Wnt signaling pathway. Dev. Biol. 292, 265-276
Koso, H., et al. (2007) c-kit marks late retinal progenitor cells and regulates their differentiation in developing mouse
retina. Dev. Biol. 301, 141-154
Koso, H., et al. (2008) CD138/syndecan-1 and SSEA-1 mark distinct populations of developing ciliary epithelium that are
regulated differentially by Wnt signal. Stem Cells, 26, 3162-3171

マウス網膜の分化過程におけるWntシグナルの役割:マウス網膜の発生過程において、Wntシグナルが神経突起形成に抑制的に働くことを見いだし、マウスモデルを
利用して解析しています。
Ouchi, Y., et al. (2005) Negative regulation of retinal-neurite extension by Wnt-Lef-1 signalling pathway. J. Cell Sci. 118, 4473-4483

マウスES細胞からの網膜細胞への分化:これまで報告のなかったES細胞からの網膜への分化を、マウスES細胞に未分化網膜特異的な転写因子RXを発現させることで、
網膜に移植すると、ES細胞の機能的な網膜細胞の亜集団への分化誘導することに成功しました。この際、機能的な解析として網膜の組織培養系にはじめて電気生理的手法を導入しました。
Tabata, Y., et al. (2004) Retinal fate specification of mouse embryonic stem cells by ectopic expression of Rx/rax,
a homeobox gene. Mol. Cell. Biol. 24, 4513-4521

網膜、血液分化に関与するキナーゼMelkの研究:マウス発生期網膜特異的キナーゼとしてMelkを同定し、その機能を検討したところ、ゼブラフィッシュにおいて、
神経系の発生のみならず、血液発生にも必須であることがあきらかになりました。現在は、マウス網膜、幹細胞におけるMelkの機能を検討しています。
Saito, R., et al. (2005) Melk-like-kinase plays a role for haematopoiesis in zebrafish. Mol. Cell. Biol. 25, 6682-6693

核内受容体COUP-TFの網膜発生における関与:さまざま核内因子の発生期網膜での発現、機能を解析する過程でCOUP-TFファミリーがBMPシグナルの下流で重要な役割を
果たしていることが明らかになりました。
Satoh, S, et al.(2009) The spatial patterning of mouse cone opsin expression is regulated by BMP signaling through downstream
effector COUP-TF nuclear receptors, J. Neurosci., 29, 12401-12411
Inoue, M, et al. (2010) COUP-TFI and -TFII nuclear receptors are expressed in amacrine cells and play roles in regulating
the differentiation of retinal progenitor cells., Exp. Eye. Res., 90, 49-56

ゼブラフィッシュを主に用いた研究
網膜発生に関与する新規転写因子の単離:ゼブラフィッシュ網膜特異的に発現するフォークヘッド型の新規の転写因子の単離を行い、この遺伝子が発生過程に
重要な役割を果たすshhの制御因子として作用することを明らかにしました。この遺伝子のノックダウンあるいは過剰発現は網膜を含む神経系の発生過程に大きな
影響を及ぼします。また別のフォークヘッド型遺伝子はあごの骨の形成にかかわることを見いだしました。
Nakada, C., et al. (2006) A novel forkhead transcription factor regulating midbrain formation through suppression of shh
expression in zebrafish. Mol. Cell Biol, 26, 7246-7257

ゼブラフィッシュ水晶体、網膜発生過程における相互作用の研究:ゼブラフィッシュの水晶体特異的なプロモーターを単離し、その制御機構をあきらかにしました。
またその制御下に蛋白質合成阻害分子を発現させると水晶体のみならず、網膜の発生も阻害されることを見いだしました。このことはゼブラフィッシュにおいて網膜の
発生について水晶体が必須の役割を果たしていることを示しています。
Kurita, R., et al. (2003) Suppression of lens growth by αA-crystallin promoter-driven expression of diphtheria toxin results
in disruption of retinal cell organization in zebrafish. Dev. Biol. 255, 113-127