サイトカインレセプターシグナル伝達の研究  

 サイトカインレセプタースーパーファミリーの存在は1990年にDNAX研究所のフェルナンド・バザーンによって提唱されましたが、その年は当研究部がラボをスタートさせた年でもありました。そこでまったく不明であったサイトカインレセプターシグナルを明らかにすることがはじめの課題でした。私達は当事DNAX研究所にいた宮島らとともにGM-CSF(Granulocyte Macrophage colony stimulating factor)レセプターを素材にβ鎖のさまざまな変異体を作製しそのシグナル伝達について主にBa/F3細胞という細胞株を用いて検討を重ねてきました。その結果、GM-CSFレセプターの下流に複数の互いに独立なシグナル伝達経路が存在すること、膜直下のbox1モチーフに会合するJak2からすべてのシグナル伝達経路が発せられること、増殖活性化にMAPK, PI-3Kなどの活性化が不要であることをあきらかにしました。GM-CSFはその名称のとうり骨髄細胞のメチルセルロースアッセイでgranulocyte(顆粒球)、マクロファージのコロニーを誘導する因子として同定されました。しかしGM-CSFのみならずサイトカインが生体内で血液細胞の分化を誘導・決定する因子なの、またことなる系列の血液細胞の分化をシグナル伝達で説明することができるのかという疑問を解決するために GM-CSFレセプターあるいはその変異体レセプターをユビキタスに発現するトランスジェニックマウスを作成しました。このマウスの骨髄細胞でメチルセルロースアッセイをおこなうとGM-CSFの添加によりG/Mコロニーのみならず検討したすべてのコロニーが誘導されることからGM-CSFはG/M系列への分化誘導因子ではなく系列をとわず血液細胞の増殖を誘導する分子であること、GM-CSFがGM-CSFとして同定されたのはG/M系列にコミットした未分化な細胞にGM-CSFのレセプターが発現していたことによると考えられています。同様の結果がIL-5、Erythropoietinなどについても報告されました。
現在私達のグループでは以下のようなプロジェクトにしぼって研究をしています。

1. GM-CSFレセプタートランスジェニックマウスを用いた解析

 現在までに私達はGM-CSFレセプター野生型、Fall変異体、キメラレセプター、G-CSFレセプター、G-CSF変異レセプターを作製しました。これらのマウスをもちいてサイトカイン刺激と血液、免疫細胞の分化、増殖の関係について検討しています。特にFallと呼ぶ、細胞内領域のチロシン残基をすべてフェニルアラニンにかえた変異体を骨髄幹細胞に発現させると、幹細胞の増幅を効率良くおこなうことをみいだし、現在血液幹細胞の増幅とサイトカインシグナルの関係を中心課題として検討を加えています。

2. STAT核移行の研究

 GM-CSFはSTAT5を活性化します。STATはJAKによりチロシンリン酸化され2量体を形成し核に移行し標的遺伝子を活性化する、というモデルが広く受け入れられていました。私達はこの過程の核外輸送がCrm1に依存するのか検討するためCrm1の特異的阻害剤であるレプトマイシンBの影響を検討する過程でSTAT5がサイトカインの非存在下でも核内外をシャトルしているということを見出しました。この輸送は単量体のSTATで行われることも明らかにしました。(Zeng et al., J. Immunol. In press) この輸送をつかさどる輸送体はどんな分子なのか、このような刺激に依存しない輸送は他の転写因子でもあるのか、生理的意義はなにか、などの疑問について検討を続けています。