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最大規模の横断的がんゲノム解析による新規発がん機構の解明
ーがんゲノム医療への応用が期待ー

最大規模の横断的がんゲノム解析による新規発がん機構の解明
―がんゲノム医療への応用が期待―

Nature(2020年4月8日:英国時間)  URL: https://www.nature.com/articles/s41586-020-2175-2
斎藤優樹、古屋淳史、荒木望嗣、木暮泰寛、新垣清登、田畑真梨子、Marni B. McClure、吉藤康太、松本篤幸、井阪悠太、田中洋子、金井隆典、宮野悟、白石友一、奥野恭史、片岡圭亮
 

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区) 分子腫瘍学分野 斎藤優樹任意研修生、古屋淳史主任研究員、片岡圭亮分野長らの研究グループは、京都大学大学院医学研究科 奥野恭史教授、東京大学医科学研究所 宮野悟教授らと共同で、これまで最大規模の症例数である6万例(150がん種以上)を超える大規模ながんゲノムデータ(注1)について、スーパーコンピューターを用いた遺伝子解析を行い、同一がん遺伝子(注2)内における複数変異(注3・4)が相乗的に機能するという新たな発がんメカニズムを解明しました。
本研究結果は2020年4月8日(英国時間)に英科学誌「Nature」に掲載されました。今回の研究の主な成果は以下の点です。
 
(1)がん遺伝子は従来単独で変異が生じることが多いと考えられてきましたが、一部のがん遺伝子では複数の変異が生じやすいことが明らかになりました。PIK3CA遺伝子・EGFR遺伝子など代表的ながん遺伝子では変異を持つ症例の約10%が同一遺伝子内に複数の変異を有しており、これらの大部分は染色体の同じ側(シス)に起きていました。
 
(2)同一がん遺伝子に複数変異が生じる場合、単独の変異では低頻度でしか認められない部位やアミノ酸変化がより多く選択されていました。これらの変異は単独では機能的に弱い変異ですが、複数生じることで相乗効果により強い発がん促進作用を示しました。
 
(3)特にPIK3CA遺伝子で複数変異を持つ場合は、単独変異よりもより強い下流シグナルの活性化や当該遺伝子への依存度が認められ、特異的な阻害剤に対して感受性を示しました。
 
これらの結果は、同一がん遺伝子内の複数変異が発がんに関与する新たな遺伝学的メカニズムであることを示しています。本研究により、これまで単独では意義不明であった変異が生じる理由が説明可能となるほか、複数変異は分子標的薬(注5)の治療反応性を予測するバイオマーカー(注6)にもなり得るため、がんゲノム診療に役立つことが期待されます。

 <用語解説>
注1:がんゲノムデータ 
がん組織に含まれるDNAの塩基配列(シーケンス)を解析し、多数の遺伝子の異常を調べたデータ。

注2:がん遺伝子 
遺伝子異常による活性化によりがん化を促進する遺伝子。

注3:遺伝子変異 
遺伝子DNAに生じた異常のこと。

注4:同一がん遺伝子内における複数変異 
あるがんにおいて、同一がん遺伝子に複数個の変異が生じる現象のことを、本研究では「同一がん 遺伝子内における複数変異」と定義しました。例えば、PIK3CA遺伝子というがん遺伝子に2個変異 を有するがんがあれば、それはPIK3CA遺伝子に複数変異を有するがんとなります。

注5:分子標的薬
ある特定の分子を標的とした、がん細胞の増殖を抑制する薬剤のこと。

注6:バイオマーカー
病気(がん)の変化や治療に対する反応に相関し、その指標となるもの。

プレスリリース