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IL-1シグナル伝達における機構的および時間的に異なる2つのNF-κB活性化経路

IL-1シグナル伝達における機構的および時間的に異なる2つのNF-κB活性化経路

Science Signaling:2 ra66, 2009
山崎孔輔1、合田仁1、金山敦宏2、宮本有正2、櫻井宏明3、山本雅裕4、審良静男5、林秀敏6、Bing Su7、井上純一郎1
1. 東京大学医科学研究所・分子発癌分野 2. 東京大学新領域創成科学研究科・細胞応答化学分野 3. 富山大学 和漢医薬学総合研究所・病態生化学研究分野 4. 大阪大学大学院医学系研究科・免疫制御学 5. 大阪大学微生物病研究所・自然免疫学分野 6. 名古屋市立大学薬学部・医療分子機能薬学
Two Mechanistically and Temporally Distinct NF-κB Activation Pathways in IL-1 Signaling Kohsuke Yamazaki, Jin Gohda, Atsuhiro Kanayama, Yusei Miyamoto, Hiroaki Sakurai, Masahiro Yamamoto, Shizuo Akira, Hidetoshi Hayashi, Bing Su, Jun-ichiro Inoue. Science Signaling: 2 ra66, 2009

細胞間情報伝達物質であるサイトカインのうち、IL-1は炎症反応や感染防御などの免疫反応において重要な役割を果たし、その無制御な発現は癌の悪性化に寄与していることが知られています。そのため、IL-1のシグナル伝達機構に関する知見は免疫疾患や癌に対する治療薬の開発に大きく貢献すると考えられます。細胞膜上に発現しているIL-1受容体にIL-1が結合することにより細胞内でシグナル伝達が誘導され、活性化された転写因子NF-κBによって、サイトカインやケモカインが発現誘導されます。そのシグナル伝達において、ユビキチンリガーゼ活性(E3活性)を有するRINGドメインタンパク質TRAF6が重要な役割をしており、未同定のユビキチン結合酵素(E2)を介して自己をK63型ポリユビキチン化します。このK63型ポリユビキチン鎖はプロテアソーム分解の標的ではなく、シグナル分子が複合体形成するための足場になると考えられており、下流のリン酸化酵素であるTAK1/TAB2複合体がこのポリユビキチン鎖を介してTRAF6と結合することが知られています。この結合により活性化したTAK1がIKK複合体を活性化しNF-κBの活性化を誘導することが知られています。一方、TRAF6の下流に位置するリン酸化酵素であるMEKK3もTAK1と同様にIL-1シグナルに関与します。しかしながら、TAK1とMEKK3、そしてTRAF6の3者はIL-1シグナルに深く関与するにも関わらず、これらの活性化の分子機構については不明な点が多くありました。

今回、我々はTRAF6のE3活性に着目し、新規な基質分子としてTAK1を同定し、IL-1シグナル依存的にTAK1がTRAF6(E3)とUbc13(E2)により、K63型ポリユビキチン化を受けることを発見しました。そして、このTAK1のポリユビキチン化はTAK1自身の活性化に必要であることを見出しました。更に我々は、TAK1の活性化に必要な分子の同定を試み、MEKK3がTAK1の活性化に必要な分子であることを発見し、TRAF6、TAK1、MEKK3の3分子がIL-1シグナル依存的な複合体を形成することを示しました。TAK1のポリユビキチン化が起こらない状況ではこの複合体が形成されないため、リン酸化酵素であるTAK1自身がK63型ポリユビキチン化を受けることで、シグナル複合体形成を促し、自身を活性化させているという新しいシグナル制御機構が明らかになりました。

091102.png上述したTAK1のポリユビキチン化を介する経路はTRAF6のRING ドメインを必要としますが(RING経路)、我々は以前にTRAF6のZincドメインから生じるNF-κB活性化経路(Zinc経路)が存在することを明らかにしました(EMBO J. 20, 1271-1280, 2001)。今回、我々はこのZinc経路の詳細な解析を進め、Zinc経路がRING経路より時間的に遅れてNF-κBを活性化することを明らかにしました。即ちZinc経路はRING経路と機構的にだけではなく時間的にも異なるNF-κB活性化経路であることを示しました。さらに、NF-κB標的遺伝子の中には、その発現がZinc経路に高く依存している群(TNFα,CCL2, CXCL10)と依存性の低い群(IL-6,IRF1)が存在する事を示し、Zinc経路の生理的な役割を明らかにしました。上記の結果より『TRAF6が下流の分子群を巧妙に操作する指揮者としての役割を果たすことで、IL-1シグナルで誘導される炎症反応や免疫応答を精密に制御する』というTRAF6による二相性NF-κB活性化モデルを提唱します。さらに詳細な解説を当研究室ホームページに掲載しています。

研究室ホームページURL: http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/BunshiHatsugan/index.html