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がんの進化シミュレーションによる腫瘍内不均一性生成原理の探索

学友会セミナー

学友会セミナー:2015年06月08日

開催日時: 2015年06月08日 14:00-15:00
開催場所: 東京大学医科学研究所 総合研究棟 8階 大セミナー室
(総合研究棟入棟の際は、入口で内線75615に連絡のこと)
講師: 新井田 厚司
所属: ヒトゲノム解析センター DNA情報解析分野・特任助教
演題: がんの進化シミュレーションによる腫瘍内不均一性生成原理の探索
概要:

がんは細胞のゲノムに変異が蓄積し増殖能力が高いものが進化的に選択された結果生じる。この進化の過程で様々なクローンが生み出され一つの腫瘍内においてゲノムレベルの不均一性を生み出していると考えられている。演者は九大別府病院との共同研究で一人の患者からの大腸がんの複数の部位から得たDNAをexome sequencingすることにより大腸がんに広汎な腫瘍内不均一性が存在するのを見出した。また他の癌腫についても同様の解析により腫瘍内不均一性の報告がなされている。しかしながら、それを生み出す原理の探求についての試みはほとんどなされていない。この目的のために演者は腫瘍内不均一性を再現する、がんの進化シミュレーションモデル、Branching evolutionary Process (BEP) Modelを構築した。また本研究ではスーパーコンピュータ「京」を利用して膨大な組み合わせのパラメーターセットでBEP modelによるがんの進化シミュレーションを行うことにより、実験データと同様の高い腫瘍内不均一性が生み出される条件の網羅的探索をおこなった。その結果、高い遺伝子変異率、がん幹細胞の存在を仮定すると高い腫瘍内不均一性が再現できることを見出した。更にシミュレーション結果から細胞の増殖に寄与するドライバー遺伝子は進化の初期に獲得され全てのがん細胞に共有されている一方で、不均一性を生み出している変異の大部分は細胞の増殖速度に影響を与えない中立変異であることが示唆された。以上、本研究により腫瘍内不均一性を生み出している進化原理の一端が大腸がんゲノム解析とスーパーコンピュータを用いたがんの進化シミュレーションにより明らかにされた。

世話人: ○井元 清哉(健康医療データサイエンス分野・教授)
 宮野 悟(DNA情報解析分野・教授)