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研究紹介: 桜井 美佳


 「細胞間接着分子CADM1のがん抑制と浸潤促進機構の解明」

背景と目的

   細胞間接着は、細胞同士を物理的に接着させるだけでなく、その増殖や運動の制御においても重要な機能を持っています。私たちの研究室で同定されたCADM1 (cell adhesion molecule 1)は、免疫グロブリンスーパーファミリー細胞接着分子群(IgCAM)に属する細胞間接着分子です(別名;IgSF4A/RA175/sgIGSF/SynCAM/Necl2)。CADM1の発現は肺非小細胞がん(NSCLC)をはじめとし、腎がん、乳がん、膵臓がんなど上皮細胞由来のがんにおいて、その進展に伴い抑制されます。このことからCADM1を介した細胞間接着がこれらのがん細胞の浸潤・転移の抑制に機能することが示唆されています。上皮細胞において発現するCADM1は、隣接する細胞同士の接着を介して形態形成・維持を司り、細胞の癌化・浸潤に対して抑制的に働く、つまりCADM1はこれらの細胞においてがん抑制遺伝子として働くと考えられています。一方で、成人T細胞白血病(ATL)細胞はCADM1を異所性に発現し、血管内皮細胞との接着を促すことで、その浸潤・転移を促進することが示唆されています。

   このようにCADM1は、がん抑制と浸潤促進という、一見相反する機能を持ちますが、どのようなしくみでこれらの機能を発揮しているのか、その詳細は未解明な部分が多く残されています。そこで私は大学院生らとともに、以下について明らかにする目的で研究を行っています。
1)CADM1が制御する細胞接着・浸潤のしくみを生細胞イメージングにより解明する
2)CADM1に対する上流側からの制御について生化学的・細胞生物学的な手法を用いて解明する

研究項目

1)CADM1および関連分子の接着・浸潤における時間・空間的な動的制御の解明
- 上皮細胞間の接着形成・維持におけるCADM1の動態
- ATL細胞の内皮下浸潤におけるCADM1の動態
- CADM1が受容体型チロシンキナーゼの動態に及ぼす影響

2)CADM1の発現および修飾制御の解明
- miRNAによるCADM1の発現制御とがんの進展との関わり
- 上皮とATL細胞におけるCADM1の糖鎖修飾の違いとそのがん化への関わり
- プロテアーゼによるCADM1の細胞外・細胞内切断と運動や細胞死との関係



最近の発表論文

1. Nagata M, Sakurai-Yageta M, Yamada D, Goto A, Ito A, Fukuhara H, Kume H, Morikawa T, Fukayama M, Homma Y, Murakami Y. Aberrations of a cell adhesion molecule CADM4 in renal clear cell carcinoma. Int J Cancer. 2011, in press. 

2. Sakurai-Yageta M, Masuda M, Tsuboi Y, Ito A, Murakami Y. Tumor suppressor CADM1 is involved in epithelial cell structure. Biochem Biophys Res Commun. 2009, 390:977-82.

3. Sakurai-Yageta M, Recchi C, Le Dez G, Sibarita JB, Daviet L, Camonis J, D’Souza-Schorey C, Chavrier, P. The interaction of IQGAP1 with the exocyst complex is required for tumor cell invasion downstream of Cdc42 and RhoA. J Cell Biol. 2008, 181:985-998.

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