研究活動

学会報告

Keystone symposia (2014/1/19-25)

1月19日から25日まで、アメリカ・コロラド州キーストーンで行われたKeystone symposiaに参加してきました。今回はPathogenesis of Respiratory VirusesとInnate Immunity to Viral Infectionsのjoint meetingでした。どちらの分野でも著名な研究者ばかりで、我々の分野でも河岡先生を始めAdolfo Garcia-sastreやPeter Palese、Rober Lamb、Ian A Wilsonなど、論文でよく見る方々が最新の研究内容を発表されており、非常に刺激的な学会でした。

私はPathogenesis of Respiratory VirusesのセッションとInnate ~のセッションを半々くらいで拝聴いたしました。

まず学会初日はDr. Caetano Reis e SousaとDr. Peter PaleseによるKeynote Sessionが行われました。

Dr. Caetanoは5’-ppp RNAがRIG-Iのリガンドであることを最初に報告した方で、今回のトークもRIG-IやMDA5などのRIG-I like Receptors(RLRs)のRNA認識機構の話でした。後日のトークでも発表されていましたが、RLRsのRNA認識機構はまだ完全に明らかになったわけではないようで、5’-pp RNAでもRIG-Iは認識できることや、あまり機能のわかっていないLGP2がEMCV感染時にRNA認識に関わることなどを発表されておりました。

Dr. Peter PaleseはインフルエンザウイルスのAntigenic Driftに関しての知見を発表されており、PNASに掲載されたTransposonを用いたmutagenesisの実験や、FISHを用いたRNA Packaging機構の話をされておりました。またHAのhead領域を変えてhead領域のimmunodominancyを低減させてStalkに対する抗体を誘導させ、Universal に効果を持つ抗体を誘導させるという実験に関しても発表しており、その際Stalk領域のみを作って免疫できたら、それが一番いいと仰っていたのが印象的でした。

その後は様々なトピックの発表を聞きましたが、Pathogenesis~のセッションではインフルエンザウイルスの複数の亜型に対して有効なワクチンの開発や、抗体のトピックが多かった印象を受けました。Universal Vaccineが現在一つの大きなキーワードで、やはりStalkを抗原としているものが殆どでした。また、中和抗体とHAとの共結晶も多く解かれており、中和抗体に関しては、Stalk領域に結合するものもありましたが、レセプター結合領域に抗体のloopがはまって中和するものもあり、どちらを認識する抗体も重要なのだと感じました。CDR3やVH領域など、抗体に関する知識が足りないことを実感いたしました。 
また、意外だったのはウイルスを使ったイメージングに関する発表が殆どなかったことです。

Innate~の方のセッションでは二つの大きなトピックがあったと思います。一つは近年、細胞質DNAセンサーとして報告されたcGASという分子の話で、もう一つはDr. Caetanoがkeynote sessionでも話したRLRsのRNA認識機構の話です。

cGASに関しては昨年かなりの量の論文がトップジャーナルに報告されており、我々のジャーナルクラブでも何度も出てきております。今回は発見者であるDr. Chenによる発見に至るまでの発表を始め、シグナル伝達機構や、構造解析によるDNA認識機構とセカンドメッセンジャーであるcGAMPの機能解析など、多くの知見が発表されておりました。cGAS KOマウスがHSV1に対して致死的であることが示されておりましたが、多くの発表が人工的な合成DNAを刺激として使っていたので、今後はDNAウイルスやバクテリアなど生の病原体や、宿主の持つDNAなどを使って、その生理的意義が解析されていくことを期待しております。また、preliminaryではありましたが、cGAMPのアジュバント効果の発表も興味深かったです。

RLRsの基質認識機構は基本的には二本鎖RNAが基質となり、5’-ppp RNAがより安定的な結合を支持すると思っておりましたが、5’-pp RNAや2’-O unmethylated RNAなど、予想以上に色々な核酸が認識されることに驚きました。またRLRsだけでなく、IFITファミリーも核酸認識受容体として解析が進んでいることも知りました。

最後に個人的に非常に印象深かった発表ですが、最終日の最後のShort talkだったDr. TenOever Bの研究室の方(おそらくポスドク)の「Long-term influenza A virus infected cells are critical for repair of respiratory damage」という発表です。現行のウイルスRNAやタンパク質を検出する方法では、追跡が難しかったウイルス感染細胞を、Creリコンビナーゼ発現ウイルス(PB2-Cre PR8)と、蛍光タンパク質tdTomato発現レポーターマウスを組み合わせることで長期に亘って追跡した研究です。このウイルスとレポーターマウスを組み合わせると、ウイルス感染細胞においてのみレポーターであるtdTomatoが発現し、細胞分裂を経てもその発現が維持されます。このtdTomato発現細胞の経時的な解析を行ったところ、クララ細胞マーカーであるCC10を発現する細胞が長期に亘って生き残る感染細胞である事が示されておりました。生き残っている細胞がどのような機能を持つのか、またどのようなメカニズムで生き残るかは今後の計画だと仰っていましたが、個人的にも上皮の再生機構に興味がありますので、最も興奮し、同時に焦りを感じた発表でした。

どの発表もレベルが高く、刺激的だったと同時に憧れを感じる学会でした。今回はメディカルゲノム英語論文発表会の賞金での参加で、登録時には演題は締め切られておりましたため、ポスターさえもなしでした。参加だけではやはり悔しいのでいつかちゃんと発表者としてKeystoneにリベンジしたいと思います。

余談ですが、今回人生初のアメリカだったのですが、最後まで時差ボケに苦しみました。今現在、日本にもアメリカにも時差があっておりません。

以上です。

D3 桂 廣亮