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一般の方へ:本研究領域の活動について

本学術領域が目指す新しい研究領域とは

 日本は4人に1人が65歳以上という超高齢社会を迎えています。これに伴い、がんや生活習慣病などの 加齢(エイジング)に伴う疾患が急増し、健康長寿実現のための方策が社会的に強く望まれています。
 加齢に伴い、からだを構成する細胞やその集合体である組織や臓器の老化が進行し、様々な体の機能が徐々に低下して行きます。こうした加齢に伴うからだの変化の一つの結果として、がんや高血圧や糖尿病などの生活習慣病などの加齢関連疾患が発症してきます。したがって、からだの加齢に伴う変化をよく理解することが、加齢関連疾患を理解する上で重要です。
 このような中、過去10数年程の間に幹細胞研究が目覚ましい進歩を遂げ、からだを構成する多くの組織・臓器が幹細胞を頂点とする幹細胞システムによる絶え間ない機能細胞の供給によって維持されていることが明らかにされてきました。幹細胞とは各組織・臓器を構成する多様な細胞群のすべてを生み出す大元の細胞です。私たちのからだを構成する機能細胞の多くは短い寿命しかなく、次々に失われています。この失われた機能細胞を補うために、幹細胞は絶え間なく新しい細胞を供給し、生涯にわたり多くの臓器・組織を維持します。一方で、不老と考えられてきた幹細胞にも寿命があり、幹細胞あるいは幹細胞の維持に必要な支持細胞(ニッチ)の加齢変化(ステムセルエイジング)が、臓器の機能低下や加齢関連疾患の発症へと繋がることが理解されつつあります。このステムセルエイジングは、加齢変化の特性の中でも本質的なものと認識されつつあり、本領域研究の中核となる概念です。そこで本領域では、これまでの老化研究を、幹細胞とニッチの加齢変化(ステムセルエイジング)という全く新しい視点から見直し、「老いと病」という今日的課題の解決に挑みます。

幹細胞システム
幹細胞システム

 機能細胞を供給する臓器幹細胞は、常に様々なストレス(老化シグナル)に曝されています。ストレスとしては、例えばDNA損傷やテロメア短縮、酸化ストレス、慢性炎症などが知られています。これに対して幹細胞は様々な抗老化システムを有し、ストレスに耐性を示します。しかしながら、加齢に伴いこのバランスが徐々にくずれ始めます。その結果、幹細胞の細胞死の亢進や機能異常を来たし、幹細胞の枯渇や劣化に伴う臓器機能の低下が起こります。また、遺伝子変異の蓄積などによるがん化などの疾患発症にもつながるものと考えられます。この過程には幹細胞の維持に重要な機能を持つニッチ細胞の加齢変化も大きくかかわっています。もちろん、全ての加齢変化・疾患がステムセルエイジングで説明できるものではありません。しかしながら、多くの病態が結果的には幹細胞の老化を促進し、病態の増悪する要因になるというエビデンスが得られつつあります。

老化シグナルと幹細胞・ニッチ細胞の加齢変化
老化シグナルと幹細胞・ニッチ細胞の加齢変化

 以上の様な観点から、本研究領域において、“ステムセルエイジングと疾患”という新しい課題のもと、多様な研究者を結集し、老化の本質の解明と加齢関連疾患の克服を目指す学術領域を構築したいと考えております。この目的のために、国内の幹細胞研究者と老化研究者、加齢に関係する疾患の研究者が集結して、最先端の研究手法を用いながら共同して研究を展開しています。
ステムセルエイジングから解明する疾患原理 領域概要

本研究領域の活動の社会的な発展可能性について

 超高齢社会の今日、持続可能な健康長寿社会の実現が重要です。健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を意味しており、この延伸の実現のためには、まさに本研究領域が取り組む加齢と疾患発症の理解が必要であります。したがって、本研究領域も、健康長寿社会の実現に重要な学術的基盤の構築に貢献し、加齢に伴う疾患の予防や早期介入(先制医療)にも重要な指針を提示していきたいと考えております。健康長寿実現に向けたシーズの創出や新規治療法の開発につながることも期待されます。本領域は、基礎研究の立場から健康長寿社会の実現に向けたイノベーションを目指していきます。
ステムセルエイジングから解明する疾患原理 領域概要