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領域概要

ステムセルエイジングから解明する疾患原理 領域概要1
 近年の幹細胞研究の目覚ましい進歩は、幹細胞システムによる絶え間のない再生機転が、生涯にわたり多くの臓器・組織を維持することを明らかにしました。この幹細胞のエイジング、すなわちステムセルエイジングは、Hallmarks of Agingとして知られる加齢変化の特性の中でも本質的なものと認識されつつあり、本領域研究の中核となるものであります。重要なことは、他の加齢変化の特性が、ほぼ全身の幹細胞システムにおいても見られることであり、幹細胞システムの幹となるステムセルのエイジングに着目して個体・臓器の加齢変化を捉える視点が重要となっています。

ステムセルエイジングから解明する疾患原理 領域概要2
 分化細胞を供給する臓器幹細胞は、常に様々な老化シグナル、例えばDNA損傷やテロメア短縮、酸化ストレス、慢性炎症などに曝されています。これに対して幹細胞は様々な抗老化システムを発達させてきました。しかしながら、加齢に伴いこのバランスが徐々にくずれ始めます。その結果、幹細胞の自己複製能の低下や分化異常、細胞死の亢進を来たし、幹細胞の枯渇や劣化に伴う臓器機能の低下につながります。また、遺伝子変異の蓄積などによる癌化などの疾患発症にもつながるものと考えられます。この過程には幹細胞の微小環境、すなわち幹細胞の維持に重要な機能を持つニッチ細胞の加齢変化も大きなインパクトを有しております。すなわち、ステムセルエイジングとは、幹細胞やニッチの加齢による生理的・病的変化を包括する現象であり、個体・臓器のエイジングを理解する上で本質的な現象であるといえます。
 ところで、現在の超高齢社会では、加齢に伴う疾患の急増が重大な社会問題となっており、平均寿命と健康寿命との差の縮小が喫緊の課題であります。今、この問題と向き合う学術的アプローチの強化が必要と考えられます。このような中、幹細胞研究の進歩は臓器幹細胞が不老ではないことを明らかにするとともに、幹細胞やニッチの加齢による変化、”ステムセルエイジング”、が臓器の加齢変化や加齢関連疾患の原因である事例が蓄積しつつあります。また、モデル生物で同定された老化・寿命シグナルが、臓器幹細胞の重要な制御因子であることも判明しつつあります。このような社会的ニーズや科学の進歩を背景に、“ステムセルエイジング”という新しい観点から『老いと病』という今日的命題を検証する必要性が高まりつつあります。

ステムセルエイジングから解明する疾患原理 領域概要3
 臓器・組織の加齢において、生理的・病的なステムセルエイジングは重要な意義を有します。もちろん、全ての加齢変化・疾患がステムセルエイジングで説明できるものではありません。しかしながら、分化細胞の加齢変化やそれに伴う疾患は、例えば炎症性サイトカインの分泌を介して、あるいはニッチ異常の原因となり、結果的にはステムセルエイジングを加速する要因になるというエビデンスが得られつつあります。このように、生理的・病的なステムセルエイジングと加齢変化・加齢疾患といった包括的な観点から、臓器・組織の加齢を明らかにしていきたいと思います。

ステムセルエイジングから解明する疾患原理 領域概要4
 以上の様な観点から、本研究領域において、“ステムセルエイジングと疾患”という新しい命題のもと、多様な研究者を結集し、老化の本質の解明と加齢関連疾患の克服を目指す学術領域を構築したいと考えております。