第8回再生医療研究会のご案内
第8回再生医療研究会を下記にて開催させていただきます。今回は再生医療の基礎と臨床、特に心筋細胞と血管新生について第一線でご活躍の先生方にご講演をお願いしております。多くの方々のご出席をお待ちしております。

1. 日時:20051213日(火) 
1500 〜 1830
2. 場所:東京大学医科学研究所 講堂
3.
プログラム
 15001545
「新しい心筋細胞の発見とデバイス開発」
国立生育医療センター 部長 梅澤 明弘先生

 15451630
「G-CSFを用いた心筋再生と末梢血を用いた血管再生」
千葉大学大学院医学研究院 教授 小室 一成先生
16401725
「心筋再生に関する臨床研究」
    大阪大学附属病院 教授 澤 芳樹先生
 17251810
「前駆細胞とサイトカインによる新しい血管新生療法」
    名古屋大学医学部循環器内科 教授 室原 豊明先生

 成育バイオリソース「胎盤・臍帯血・子宮内膜・月経血・脂肪」の心筋分化に関する差異
国立成育医療センター研究所・生殖医療研究部   梅澤明弘

 間葉系幹細胞は、神経幹細胞、造血幹細胞と共に再生医療という治療戦略の重要な一翼を担う。臨床においても、すでに造血幹細胞の生着促進を目的に骨髄移植と同時に骨髄間質細胞の移植が行われ、細胞治療の供給源としてとしての利用は整形外科領域、歯科口腔外科領域、循環器領域に拡がっている.ヒト骨髄由来間葉系細胞の寿命が延長するという発見を元に、多くのヒト骨髄間質細胞の寿命延長に成功し、心筋細胞、神経、骨芽細胞、脂肪細胞、骨格筋への分化をさせた.また、独自に確立した間葉系細胞培養システムを用いて、子宮内膜、臍帯血、末梢血、胎盤、軟骨、月経血、皮膚、脂肪由来の間葉系細胞を単離し、増殖させ、細胞移植の供給源とする細胞提供システムを速やかに構築している。これらの間葉系細胞は小児多指症を初めとする成育疾患に由来する手術検体に由来し、成人組織と異なる増殖能・分化能を認めていることから、成育バイオリソースとして独自な細胞供給源の集団として考えている.これらの間葉系細胞は、日本国内で進められている様々な幹細胞に対するフィーダー能を有するのみならず、その細胞自身が多分化能を有していることは極めて重要な意義を有する.また、さまざまな組織に由来するヒト間葉系細胞は、その由来する組織毎に異なる性質を保持しており、上皮同様の多様性を有していることが明らかとなった.言い換えれば、上皮細胞が皮膚、肺、胃、小腸、大腸、肝、膵で全く異なる性質を有しているのと同様に、間葉系細胞も単なる間充織を占める同一の集団ではなく組織毎に異なる性質を有し、それらは分化能に明確な違いを示す.ここでは特に心筋分化能に注目し解析を進め、子宮内膜にはバイオペースメーカー能を示す間葉系細胞が存在することを紹介し、成育バイオリソースの意義を明らかにする.

G-CSFを用いた心筋再生と末梢血を用いた血管再生
 
千葉大学大学院医学研究院循環病態医科学 小室一成

 現在あらゆる分野で再生医療が注目されている。血管においては、主に患者本人の骨髄単核球を用いて、閉塞性動脈硬化症などの末梢動脈閉塞症や虚血性心疾患に対する再生治療が盛んに行われている。当科においてもより侵襲の少ない方法として、末梢血単核球を用いた血管新生療法を実施しており、8割程度に効果をみている。その機序について新しい知見を得たので発表する。
 一方心臓の再生に関しては現在2つの方法が考えられている。1つは細胞移植である。現在患者本人より骨格筋をとり、骨格筋芽細胞を心臓に移植する治療が欧米で進んでいる。一方ES細胞は分裂増殖能がきわめて高く、また容易に心筋細胞に分化するといった特徴をもっており、移植細胞のよい候補ではあるが、免疫的拒絶や腫瘍形成といった問題が残っている。最近我々はES細胞を高率に心筋細胞に分化する分子を同定した。心臓再生のもう一つの方法は体内で再生を促進させるというものである。上述したように、血管を新生することは比較的容易であるが、心筋細胞の新生は困難である。骨髄細胞が心筋に高率に分化すると報告されたが、最近では否定的意見が多い。我々は最近G-CSFによる心筋梗塞の改善メカニズムを明らかにしたが、G-CSFの主な作用は心筋細胞保護であり、心筋細胞の増殖や新生はおこっていなかった。我々を含めて4つのグループが心臓より多分化能をもった未分化細胞の単離に成功した。今後この細胞の増殖や分化を人為的に操作することができれば、心筋細胞の新生療法も可能となろう。心臓血管の再生研究に関して我々の研究を中心に概観する。

    心筋再生の臨床研究
 大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科 澤 芳樹
内科治療が奏功しないほど重症な心不全に対し、補助人工心臓や心臓移植等の置換型治療は有効であり、これまで我々はその臨床的有用性を報告してきた。しかし、これら重症心不全に対する置換型治療はドナー不足や免疫抑制、合併症など解決すべき問題も多い。
最近、心不全に対する新しい治療法として、心筋再生型治療法が注目されつつある。心筋細胞は、他の増殖細胞と異なりTerminal Differentiationを呈しほとんど分裂せず、従って障害を受けた心筋細胞は最終的にapoptosis等により死滅しその数は減少すると考えられてきた。しかし、最近、心筋における幹細胞や障害心筋への骨髄幹細胞の関与の報告、自己細胞による心筋への細胞移植やGCSF等のサイトカインが心機能を改善する事が報告され、いまや循環器分野で最もホットな領域となっている。これら新しい種々の治療法は、一部が臨床応用も開始されているが、その有用性が期待されるが、今後さらに症例を重ね検討を要すると考えられる。
我々は、虚血性心筋症に対し、筋芽細胞によるmyogenesis及び骨髄細胞によるangiogenesisによる心筋再生を目的として、心筋梗塞による慢性心不全犬を作成し、自己骨格筋芽細胞及び骨髄単核球細胞の併用移植を行った。両細胞移植群では、それぞれの単独群に比し、心機能及び壁厚が有意に回復するとともに、リモデリングの抑制を認めた。この前臨床試験の結果より、ヒト筋芽細胞をGMPに準拠して培養するCPCを整備するとともに、GCPに準じた客観性の高い臨床試験プロトコールを作成した。現在、左室補助人工心臓を要する重症虚血性心疾患に対する自己細胞療法の臨床応用を開始した。
さらに、拡張型心筋症などの広範囲障害心筋の再生を目的として、東京女子医大岡野光夫教授との共同研究により温度感応性培養皿を用いて組織工学的に筋芽細胞シートを作成し、ラット心筋梗塞モデル及び心筋症ハムスターの不全心に移植した。組織学的に均一構造をとって障害心に生着し、心機能も改善した。特に心筋症ハムスターにおいては、非治療群が40週齢で100%心不全死するのに対し、筋芽細胞シート群では60週齢を過ぎても生存した。現在、自己骨格筋細胞によるシートの有効性を、豚心筋梗塞モデルおよび拡張型心筋症モデルである高速ペーシングによる犬心不全モデルを用いた前臨床試験で検討中である。
このような細胞移植や組織工学による心筋再生治療法は、今後、重症度や疾患に応じ、また置換型治療法との併用等により新たな外科治療戦略としてその展開が期待される。

前駆細胞を用いた血管再生療法の試み
名古屋大学大学院医学系研究科・循環器内科学室原豊明

 重症虚血肢や重症虚血性心疾患に対して、側副血行路を増やすことにより治療を行おうとする試みが、1990年代の初めから開始された。VEGF を中心とした遺伝子治療により始まった血管新生療法は、「血管再生療法」の一つとして広く認知されるに至った。
 1997年、浅原博士らにより成人の末梢血中に内皮前駆細胞が発見されたのを機会に、これらの細胞を培養して移植するといういわゆる血管(内皮)の前駆細胞移植治療が検討されるようになった。実際に培養拡張した内皮前駆細胞を移植することにより、免疫抑制動物の重症下肢虚血組織に血管新生を誘導できることが示され、さらに組織救済が図れることが証明された。このような背景に基づき、国内において最初に開始された血管新生療法は、細胞治療としての患者自身の骨髄単核球細胞を移植するという形で開始された。最近では、これら細胞治療をより効率よく行うための研究が進展しつつある。あるいは既に臨床で応用可能な薬剤などによる血管新生治療研究が進んでいる。
 さらに流血中の内皮前駆細胞の数や機能は、様々な動脈硬化の危険因子の存在によって修飾されることが示されている。我々も FACS を用いたこれらの細胞の定量化を試みている。これまでに報告されている内皮前駆細胞の動態と動脈硬化危険因子について、自験例も含めて考察を加えたい。

連絡先:細胞プロセッシング(CERES)研究部門 高橋 
(内75599)takahasi@ims.u-tokyo.ac.jp