東京大学医科学研究所、島津製作所、凸版印刷によるオーダーメイド医療実現に向けた先端的ゲノム・プロテオーム解析の共同研究について

 

 国立大学法人東京大学医科学研究所(山本雅所長)、凸版印刷株式会社(足立直樹代表取締役社長、東京都千代田区)及び株式会社島津製作所(服部重彦代表取締役社長、京都市中京区)は、オーダーメイド医療実現に向けた技術開発のための共同研究に着手しました。

 

1.  本共同研究の趣旨

近年、患者個人の体質や病態・薬剤応答性をもとに薬の種類や量を決定するなどの患者個人に適した医療(オーダーメイド医療)の実現を目指して、医学的な個人差とゲノムに存在するSNPs(※1)の相関研究が進んでいます。また、病気の早期発見や病態診断に用いるための高感度の疾患特異的バイオマーカー(※2)探索研究が進んでおり、信頼性の高い臨床診断の実現が期待されています。

本共同研究では、ゲノム解析(※3)・プロテオーム解析(※4)の二つのグループが連携をとり、オーダーメイド医療実現のため、疾患に関連するタンパク質や遺伝子の基礎研究を包括的に進めて参ります。このようなオーダーメイド医療実現に向けた、臨床応用を含む社会還元ための総合的な産学連携研究体制の構築は国内初めての試みです。

 

    基礎研究としての独自性: 

@    新しいバイオマーカーの発見

A    新しい疾患関連遺伝子と疾患メカニズムの探索

    臨床応用による社会還元: 

@    オーダーメイド医療実現のためのシステム構築

A    患者個人に適したきめ細かな治療法を決定するために有用な情報を医療の現場に提供

 

 

2. 共同研究の役割

本共同研究には、東京大学医科学研究所(山本雅所長) 癌細胞シグナル分野(山本雅教授)・ゲノムシークエンス解析分野(中村祐輔教授)が参画し、(株)島津製作所ライフサイエンス研究所(西村紀所長)、凸版印刷(株)総合研究所(久野輝雄所長)が中心となり、東京大学医科学研究所内に共同研究ユニットを設置し、3者が互いに連携しながら共同研究を推進します。

本共同研究では、東京大学医科学研究所、(株)島津製作所の先端機器分析技術と独自性の高い試薬開発、凸版印刷(株)の有する半導体設計・微細加工技術・表面処理技術を活用・融合し、臨床の現場において診断に利用可能な、「新規DNAチップを用いた臨床診断法の実現」・「新規バイオマーカーによる臨床診断手法の実現」を目指します。

 

3.  共同研究の概要

<ゲノム解析>

中村祐輔教授を代表とした共同研究において、疾患と遺伝子や遺伝子多型の関係を幅広く解析し、SNPsコンテンツの探索・選定をするとともに、東京大学医科学研究所で解析検討された種々のコンテンツを利用して、診断や創薬利用を視野に入れたDNAチップの用途開発のための研究を行います。

 

<プロテオーム解析>

山本雅教授を代表とした共同研究において、主に癌や免疫疾患の関連遺伝子の動態をタンパク質レベルで解析し、医療現場で利用可能な診断マーカーの探索なども行います。

この過程でゲノム情報・タンパク質情報・疾患関連情報などを統合するデータベースを構築し、基礎研究・臨床研究の成果を有効活用したトランスレーショナルリサーチ(※5)を実践します。

 

. 各社概要 

1) 株式会社島津製作所

  (株)島津製作所のライフサイエンス事業は、遺伝子とタンパク質解析における新しいメソドロジーの開発をもとに、遺伝子解析における「アンプダイレクト」やタンパク質解析における「NBS試薬」、タンパク質合成における「トランスダイレクト」等の新規の「試薬」、DNAシークエンサーや質量分析装置(MS)などの「解析機器」、これらの新しい試薬や機器を活用した「受託解析サービス」の提供によって、総合的な研究開発支援を行ってまいりました。さらには、最近これらの「試薬」や「機器」の診断市場への展開にも力を入れております。具体的には、遺伝子分野ではロシュ・ダイアグノスティックス社と共同で開発した血漿中のB型肝炎ウイルス(HBV)遺伝子抽出試薬が同社の体外診断用医薬品である「アンプリコアHBVモニター」用として販売されています。また、タンパク分野においても疾患マーカーの探索研究に着手しています。

 

2)凸版印刷株式会社

1900年創業、世界トップクラスの総合印刷会社として、証券・カード、商業印刷、出版印刷、パッケージ、産業資材、エレクトロニクス、Eビジネス、オプトロニクスの8分野で事業を展開。現在これら既存の事業を「情報・ネットワーク系」「生活環境系」「エレクトロニクス系」へと集約、進化させ、さらに「パーソナルサービス系」「次世代商品系」を加えた新事業領域で「情報コミュニケーション産業」の発展を目指しています。

  次世代商品系ではライフサイエンス分野などへの取り組みを強化しています。

 

3)国立大学法人東京大学医科学研究所

 東京大学医科学研究所は、個々人の自由な発想に基づいた研究を展開する3つの機関研究部門、目的志向型の研究を展開する3つの基盤研究センター、研究医療、探索医療を展開する附属病院から構成されています。ゲノム情報に基づいた医療や再生医療に向けてのプロジェクト研究が力強く進められるとともに、近年社会的な問題ともなっている新興・再興感染症についても、我が国の感染症研究のレベルを高めるとともに、新たな診断法や治療法を開発するために第一線での研究を展開しています。医科学研究所は情報科学から生命科学、生化学、獣医学、医学にわたる広範な分野を統合しながら医科学研究を推進し、さらにゲノム科学、プロテオーム、再生医学、ナノ科学を新たに取り込みながら、“システム医科学”分野を切り開いています。

 

 

 

5. 用語解説

(※1)SNPs(一塩基遺伝子多型)

ヒトゲノムは30億塩基対のDNAからなるが、個々人を比較すると約0.1%の配列の違いがあると見られており、これを多型と称す。遺伝子多型は遺伝的な個人差を知る手がかりとなるが、その大部分はSNPsで、そのタイプにより、遺伝子をもとに体内で作られる酵素などのタンパク質の働きが微妙に変化し、病気のかかりやすさや医薬品への反応に変化が生じる。

 

(※2)バイオマーカー

診断や創薬に役立つ生体内の物質。物質の存在および量を指標にして診断や創薬ターゲット選定に活用される。

 

(※3)ゲノム解析

生物のゲノムについて、全塩基配列の解読や、染色体地図、遺伝地図などを作成すること。また、配列の性質や生体機能との関連探索のための解析を行うこと。遺伝子の単離や品種間差異、各品種などの特徴を明らかにするため、多種多様な生物でゲノム解析が進められている。

 

(※4)プロテオーム解析

プロテオーム(proteome)は、一つの生物、組織、または細胞に発現しているタンパク質全体と定義され、Protein(タンパク質)とome(ラテン語で全体を意味する)から合成された造語。プロテオームの情報をアミノ酸配列の一次構造、高次構造、さらに、それらの量、分布の時間的経過、コードするDNAの情報とともに解析し、生物の代謝活動や、病理的現象を解明すること。

 

(※5)トランスレーショナルリサーチ

基礎研究の成果を、新たな治療・診断・創薬に応用するための橋渡しとなる技術開発研究。