後天的なY染色体の喪失機構 -DNAデータより細胞老化とがん化につながる現象の解明へ-
後天的なY染色体の喪失機構 -DNAデータより細胞老化とがん化につながる現象の解明へ-
理化学研究所(理研)生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チームの寺尾知可史チームリーダー、鎌谷洋一郎客員主管研究員(東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)らの国際共同研究グループ※は、男性の性染色体であるY染色体を喪失した細胞が血中に増加する現象(mLOY)における遺伝機構や重要な血液細胞の分化段階、転写因子などを明らかにしました。今回、国際共同研究グループは、バイオバンク・ジャパンの男性登録者95,380人のDNAマイクロアレイデータを解析しました。その結果、ヨーロッパ系人種で見られる加齢や喫煙によるmLOYの発生が日本人でも確認され、さらにmLOYを起こりやすくする31の関連遺伝領域(日本人独自のものを含む)を新たに同定しました。また、遺伝統計学的な解析を行ったところ、造血幹細胞にmLOY関連シグナルの集積が見られ、特に強くシグナルの集積が見られる血球分化の初期細胞を同定しました。さらに、mLOYにおいて重要な役割を果たす転写因子FLI1を同定し、mLOYのマーカーとなりうる指標も同定しました。そして、54,887人のデータを用いてmLOYと疾患の関連を解析した結果、総死亡率やがんの死亡率の上昇とmLOYとの明確な関連は認められませんでした。本研究成果は、加齢に伴う染色体変化やがんの発生機構の解明に向けた基礎医学とY染色体喪失を予測する臨床医学の進歩に貢献すると期待できます。また、DNAマイクロアレイデータは、全世界で数百万人以上の規模で存在し、これまでそのシグナル情報は生まれつきの変異の同定にのみに使われてきました。今回、このデータには後天的な染色体変化の情報が含まれていることが明確になり、そのメカニズムの一端を解明できました。今後、既に利用可能なこれらのシグナル情報を集約させることによって、日本人に特有な機構を含む詳細なmLOYの機構が解明され、老化やがん化のメカニズムの解明につながると期待できます。本研究は、英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』(10月17日付け)に掲載されました。