東京大学医科学研究所

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発表論文解説

ピロリジルtRNA合成における翻訳の直交性の分子構造基盤

Nature doi:10.1038/nature07613 (2008)
野澤佳代1,Patrick O'Donoghue2,Sarath Gundllapalli2,荒磯裕平1,石谷隆一郎1,梅原拓也2,Dieter Soll2,濡木理1
1: 東京大学医科学研究所・基礎医科学部門・染色体制御分野,2: エール大学・分子生物物化学専攻
Pyrrolysyl-tRNA synthetase–tRNAPyl structure reveals the molecular basis of orthogonality. Nozawa K., O'Donoghue P., Gundllapalli S., Araiso Y., Ishitani R., Umehara T., Soll D. & Nureki O. Nature doi:10.1038/nature07613, 2008

タンパク質は20種類のアミノ酸から構成されますが、各々に対応して20種類のアミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)が存在し、特異的なアミノ酸とtRNAを認識し結合することで、正確な遺伝暗号の翻訳を行っています。すべての生命の起源と言われ30億年前から生息していた古細菌の一種メタン古細菌においてメタン代謝を行う酵素は、触媒部位に「22番目の天然アミノ酸」といわれるピロリジンが存在し、酵素活性を担っています。このタンパク質へのピロリジンの取り込みには、ピロリジルtRNA合成酵素(PylRS)という特別なaaRSが関与し、tRNAPylアンバーサプレッサーに直接ピロリジンを結合させます。しかし、PylRSおよびtRNAPylサプレッサーが、他のtRNAやaaRSと誤って反応しない(翻訳の直交性)メカニズムはわかっていませんでした。  本研究では、Desulfitobacterium hafnienseという細菌由来のPylRSとtRNAPylの複合体の立体構造をX線結晶構造解析によって決定しました。トリプトファン合成酵素遺伝子にアンバー終止コドンを導入したトリプトファン要求性の大腸菌株を作製し、D. hafniense PylRSとtRNAPylの遺伝子を形質転換したところ、ピロリジン存在下で大腸菌の生育が認められたため、D. hafniense PylRSとtRNAPylは大腸菌内で翻訳の直交性を保持しつつ機能することをつきとめました。さらに、tRNAPylサプレッサーは通常のtRNAと二次構造が大きく異なり、他の通常のtRNAでは立体障害によって認識されませんでしたが、tRNAPylサプレッサーではL字型の立体構造を支えるコアと呼ばれる領域が非常にコンパクトになることにより、PylRSはこのコア領域を直接認識していることが明らかになりました。以上より、PylRSとtRNAPylが翻訳の直交性を維持するメカニズムの構造基盤を解明しました。  近年、サプレッサーtRNAに非天然のアミノ酸を結合させるaaRS変異体を作製し、非天然型アミノ酸をタンパク質に取り込ませるバイオテクノロジーが盛んになっています。この場合も、変異体aaRSが通常のアミノ酸やtRNAを認識せず、翻訳の直交性を保持することが前提となっています。本研究から、自然は30億年前からこのようなバイオテクノロジーを生命の中で行ってきたことが明らかとなりました。