精子運動能の制御に関わる分子を同定
精子運動能の制御に関わる分子を同定
Proc Natl Acad Sci USA 2017 Jun 19. pii: 201621279. doi: 10.1073/pnas.1621279114.
精子は卵子と受精するために、女性の生殖路内を泳いで通過しなくてはいけません。精子の運動能が低い状態を精子無力症といい、男性不妊の原因の18%は精子無力症に起因すると言われています。精子は鞭毛とよばれる尻尾を使って運動します。鞭毛は周辺微小管、ダイニンモーター、ラジアルスポーク、ネキシン・ダイニン制御複合体(N-DRC)などの部品から構成されます。これらの部品が正しく組み立てられないと鞭毛の形成異常や運動能の低下に繋がります。
T-Complex-Associated-Testis-Expressed 1 (TCTE1)はクラミドモナス(単細胞の鞭毛虫)から哺乳類まで進化的によく保存されているタンパク質で、N-DRCに局在します。本研究では、TCTE1がマウス精子の鞭毛に存在していることを明らかにしました。TCTE1を欠損させたノックアウト(KO)マウスを作製してみると、KOマウスの精子運動パターンが異常になり、雄性不妊となりました。電子顕微鏡で鞭毛の微細構造を観察しましたが、明らかな構造異常は見つかりませんでした。しかし詳しく解析してみると、KO精子ではダイニンモーターがエレルギーとして使うATPの量が減っていることが分かりました。これらから、TCTE1は精子運動能の制御に関わっていると考えられます。TCTE1はヒトでも保存されており、精子無力症の新たな原因遺伝子である可能性が示唆されました。
本研究は米国ベイラー医科大学Martin Matzuk研究室、南京医科大学Mingxi Liu研究室との国際共同研究の成果です。
http://www.biken.osaka-u.ac.jp/achievement/research/2017/108