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癌抑制遺伝子p53はヒストン修飾を制御する

癌抑制遺伝子p53はヒストン修飾を制御する

Nature communications doi: 10.1038/ncomms1676
谷川千津1, Martha Espinosa1, 鈴木亜香里2, 益田健1, 山本一彦2,3, 土屋永寿4, 植田幸治2, 醍醐弥太郎1,5, 中村祐輔1, 松田浩一1
1東京大学医科学研究所 ゲノムシークエンス解析分野/シークエンス技術開発分野 2理化学研究所ゲノム医科学研究センター 3東京大学医学部付属病院 4神奈川県立がんセンター 5滋賀医科大学
Regulation of histone modification and chromatin structure by the p53–PADI4 pathway.

我々の細胞は常に紫外線や活性酸素など様々なストレスにさらされています。重篤な障害を受けた細胞を我々の体から排除する仕組みは、癌の発症を予防する上で必要不可欠な機構です。癌抑制遺伝子p53は様々なストレスによって活性化し、アポトーシス(プログラムされた細胞死)を引き起こすことで癌を未然に防ぐ働きがあります。実際に癌の約半分でp53の異常が見つかっており、p53の働きを保つことが癌予防に重要となります。

今回我々は、アポトーシスの最終段階であるDNAの切断や核の断片化を促進する分子PADI4を発見しました。全長2mにもなる長いDNAは、ヒストンに巻きつくことで我々の細胞の中で安定に存在しています。PADI4はアミノ酸の一種であるアルギニンをシトルリンに変換する酵素ですが、細胞がダメージを受けるとp53の働きによってPADI4が活性化されます。活性化したPADI4によってヒストン蛋白質中のアルギニンがシトルリンに変換されるとヒストンとDNAの結合が不安定化し、その結果DNAが切断されやすくなりアポトーシスが促進されることがわかりました。またPADI4を持たないマウスではX線照射によるアポトーシスが起きにくくなりました。さらに肺癌や乳癌、大腸癌でPADI4の遺伝子異常がみつかり、これらの結果より、PADI4の働きが悪くなることが癌の発症の原因になると考えられました。

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メチル化やアセチル化等のヒストンに対する修飾は細胞の状態を決定する目印となっており、これらは”ヒストンコード”と呼ばれています。ヒストンのシトルリン化は重篤なダメージによって誘導され、DNAの切断およびアポトーシスを促進する事から、"アポトーシス・コード"として機能すると考えられます。本研究によって、最も高頻度に変異が見られる癌抑制遺伝子であるp53がヒストン修飾を直接制御する事が初めて示されました。この成果により、抗癌剤とPADI4を活性化する薬剤を併用することで癌治療への応用につながると期待できます。

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