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発表論文解説

レドックス関連因子nucleoredoxin (NRX)によるWntシグナルの負の制御

Nature Cell Biology 8, 501-508 (2006).
船戸洋佑1,2、道上達男5,6、浅島誠4,5,6、三木裕明1,3
1. 東京大学医科学研究所 癌遺伝形質分野
2. 東京大学医科学研究所 腫瘍分子医学分野
3. PRESTO
4. ICORP、科学技術振興機構
5. 東京大学大学院総合文化研究科
6. 現所属:産業技術総合研究所
The thioredoxin-related redox-regulating protein nucleoredoxin inhibits Wnt-β-catenin signaling through Dishevelled Funato, Y., Michiue, T., Asashima, M., and Miki, H. Nature Cell Biology 8, 501-508 (2006).

Wntシグナルは生命の発生、分化に重要な役割を果たしている経路であり、その異常な活性化は種々のがんを引き起こすことが知られている。しかし、このWntシグナルの詳細なメカニズムはなお未解明な点が多く残されている。そこで我々はWntシグナルの必須因子の一つ、Dishevelled(Dvl)の結合因子を網羅的に探索し、レドックス関連因子nucleoredoxin(NRX)を同定した。redox_fig_03.jpg 図1 アフリカツメガエルの初期発生におけるNRXの機能(右)が内在性NRXのタンパク質発現を抑制させたアフリカツメガエルの幼生。(左)のコントロール(通常発生)と比較して、眼の形成において顕著な異常が観察される。NRXはWntシグナルを負に制御しており、我々はNRXの発現を抑制することによってWntシグナルが活性化し、細胞の増殖能の亢進やフォーカス形成能の上昇といったがんとの関連を伺わせる知見が得られた。アフリカツメガエルにおいてもNRXのタンパク質発現を抑制することによって頭部形成に異常をきたした幼生が観察され、NRXが生命の初期発生においても重要な役割を担っていることが明らかとなった。さらに、我々はNRXがDvlと細胞内でレドックス依存的に結合し、Wntシグナルを酸化ストレス依存的に制御していることを見出した。

Wntシグナルが酸化ストレスに応じて制御されていることはこれまで知られておらず、本研究より新たなWntシグナルの制御メカニズムが明らかとなった。ヒトのがんにおいてWntシグナルの異常な活性化はしばしば見受けられるが、その原因が定かでないものも意外に多い。本研究で突き止められた新たなシグナル制御メカニズムがこれらがんにおける原因不明なWntシグナルの活性化に関与している可能性も十分考えられる。

redox_fig_07.gif 図2 NRXを介したWntシグナルのレドックス依存的制御のモデル還元状態(左)ではNRXはDvlと強固に結合しており、Wntシグナルの活性化を抑えている。酸化ストレスによりNRXが酸化状態になると、NRXがDvlから解離し、Wntシグナルが活性化される。それによって細胞増殖能の亢進や、がん化に結びつく可能性がある。