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発表論文解説

赤痢菌のIpgB1はELMO-Dock180を利用して宿主細胞への侵入を促進する

Nature Cell Biology 2007 9(1) 121-8
半田 浩1、鈴木 仁人1、大屋 賢司1、祝 弘樹1、石嶋 希1、Anthony J. Koleske3、福井 宣規4、笹川 千尋1,2,5
1. 東京大学医科学研究所・細菌感染分野
2. 東京大学医科学研究所・感染症国際研究センター・感染制御部門
3. Department of Molecular Biophysics and Biochemistry, Yale University School of Medicine
4. 九州大学生体防御医学研究所・免疫遺伝学分野
5. CREST
Shigella IpgB1 promotes bacterial entry through the ELMO-Dock180 machinery. Yutaka Handa, Masato Suzuki, Kenji Ohya, Hiroki Iwai, Nozomi Ishijima, Anthony J. Koleske, Yoshinori Fukui, and Chihiro Sasakawa Narure Cell Biology 2007 9(1) 121-8

赤痢菌は発展途上国を中心に年間1億人が感染し数十万人の乳幼児の命が失われている。近年、ニューキノロン耐性を含む多剤耐性菌化した赤痢菌が拡散しており、ワクチンの開発が望まれているが、いまだに安全な赤痢弱毒ワクチンの開発は困難な状況にある。赤痢菌は経口的に体内に侵入し大腸へ到達した後、M細胞を侵入門戸として粘膜下へ侵入し、貪食機能を持たない極性化した吸収上皮細胞の側低面に貪食様(大規模はマクロピノサイトーシス)の応答を誘導させ細胞内へと侵入する。細胞内で菌は場爆発的に増殖し、さらに周囲の細胞へ拡散する結果、腸管に炎症性の粘膜バリアー破壊がおこり最終的に血性下痢が引き起こされる。これまでに、本菌の上皮細胞侵入メカニズムについては断片的な報告がなされていたが、その本体は不明であった。

今回、我々は赤痢菌のIII型分泌装置により分泌されるタンパク質の1つであるIpgB1が菌の細胞侵入に中心的な役割を果たす病原因子であることを明らかにした。 fig_ipgb1elmodock180.png即ち、赤痢菌から分泌されたIpgB1は、宿主細胞内においてELMO(RhoGの結合により活性化され細胞運動、貪食、突起形成などに関わるアダプタータンパク質)へ特異的に結合し、これにさらにDock180(ELMOと複合体を形成しRacに対してGEFとして働く)が結合すると、RhoG-ELMO-Dock180複合体と同様に、IpgB1はELMO-Dock180複合体を細胞質から細胞膜へと移行させた。その結果、Rac1が活性化させて上皮細胞に大規模なラッフル膜が形成された。これらのことから、赤痢菌のIpgB1は、RhoGの機能を代行して菌の取り込みに必要な大規模なラッフル膜の形成を誘導していることが明らかとなった。本研究により病原細菌の驚嘆すべき感染システムの一端が明らかにされた。