東京大学医科学研究所

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発表論文解説

Hemagglutinin mutations responsible for the binding of H5N1 influenza A viruses to human-type receptors.

Nature 444:378-382, 2006.
山田晋弥、鈴木康夫、鈴木隆、Le MQ、Nidom CA、坂井(田川)優子、村本裕紀子、伊藤睦美、木曽真紀、堀本泰介、新矢恭子、澤田敏彦、木曽真、碓氷泰市、村田健臣、Lin Y、 Hay A、Haire LF、 Stevens DJ、 Russell RJ、Gamblin SJ、Skehel JJ、河岡義裕
感染免疫部門ウイルス感染分野

近年、H5N1高病原性鳥インフルエンザがアジアを中心に家禽で流行し、それに伴い、ヒトへの感染が年々増加しています。幸い世界的流行(パンデミック)は起こっていませんが、ヒトでの感染を繰り返すと、変異を起こし、ヒトで効率よく増殖するウイルスが出現する可能性が高まるため、現在、世界的流行を起こしうる新型ウイルス出現の危険性が危惧されています。

インフルエンザウイルスは、ウイルス膜表面にある糖タンパク質のひとつであるヘマグルチニン(HA)が、動物の細胞表面にあるレセプター(受容体)と結合して感染が始まります。一般に鳥のインフルエンザウイルスは、鳥型のレセプターと結合し、ヒトのウイルスはヒト型レセプターと結合します。そのレセプター特異性の違いがどの動物に感染するかを大きく左右します。

私たちは、H5N1鳥インフルエンザウイルスが、どのような変異を獲得した場合に、ヒト型のレセプターと結合するようになるのか、その分子メカニズムを解明するために、鳥に感染した5株、および、ヒトに感染した21株のH5N1インフルエンザウイルスのレセプター特異性の解析を行いまいた。その結果、鳥の5株は、鳥型レセプターのみと結合したのに対し、ヒトに感染したウイルスは、数株が鳥型レセプターのみならずヒト型レセプターとも結合し、中でも、3株がヒト型レセプターへの顕著な親和性を示しました。そのうち2株については、192番目のアミノ酸変異(Q→R;グルタミン→アルギニン)、139番目の変異(G→R;グリシン→アルギニン)、182番目の変異(N→K;アスパラギン→リシン)が大きく関与していることがわかりました。残りの1株については、複数のアミノ酸の変異の集積によりヒト型レセプターと結合できるようになっていることがわかりました。

現在、H5N1鳥インフルエンザウイルスは、系統学的に3つのクレード(分岐群、clade)に分類されています。本研究で解析したウイルスは、クレード1に属します。そこで、クレード1におけるHA内のアミノ酸の変異(192番目のQ→R、139番目のG→R、182番目のN→K)が、クレード2に属する株(2005年~2006年に中国、インドネシア、更に中東、アフリカ、欧州にまで拡散した株)で起こったときにも、同様にヒト型レセプターと結合するように変化するか否か解析を行ったところ、192番目のQ→Rはヒト型レセプターに結合するようになりましたが、182番目のN→Kと139番目のG→Rはヒト型レセプターへの結合を示しませんでした。しかしながら、182番目のN→Kは両クレードのウイルスに共通して、鳥型レセプターへの親和性を低下させました。鳥型レセプターとの親和性を減少させることも、ヒトに感染するようになる適応過程で重要であると考えられます。

また、コンピュータ上で結合の構造を解析した結果、182番目のN→Kと 192番目のQ→Rに関しては、水素結合によりヒト型レセプターとの親和性を高めている可能性が示唆されました。これらの結果により、182番目や192番目のアミノ酸変異は、ヒト型レセプターの認識に大きく関与しうることが示されました。

以上より、182番目や192番目のアミノ酸変異は、新型H5N1鳥インフルエンザウイルスの出現を監視する上で注目すべき変異で、これらの変異を持つウイルスが出現したときは、発生地域における調査監視(サーベイランス)を強化し、徹底した封じ込め政策を実施するなど、新型H5N1鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染するリスクを評価するための指標となると期待されます。

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