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健康医療データの利活用と患者・市民の権利保護の研究―日本と欧州の動向

学友会セミナー

開催情報

開催日時 2023年12月27日(水)10:00~11:00
開催場所 WEB開催 ミーティング ID 852 4902 1998  パスコード497286  招待リンク https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/j/85249021998
講師 李 怡然
所属・職名 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター公共政策研究分野 助教
演題 健康医療データの利活用と患者・市民の権利保護の研究―日本と欧州の動向
世話人
主たる世話人:柴田 龍弘(ゲノム医科学分野)
       武藤 香織(公共政策研究分野)
       
 
       
       
       

概要

近年の医学研究は、ゲノムやマルチオミックス、画像解析などの手法で網羅的にリスクを調べ、予防や早期診断、個別的な治療薬の選択につなげる方向へと向かっている。また、健康医療データを患者本人の診療・ケアのために一次利用するだけでなく、医学研究や創薬のために二次利用することを促進する動きもある。たとえば、EUでは「欧州ヘルスデータ空間」(EHDS)と呼ばれる国境を超えたデータ統合のための計画が2022年に提案され、目下、法整備とインフラの構築が進行している。この計画では、市民の医療アクセス向上やデータ管理権を保護するとともに、加盟国間で安全かつ効果的にデータの二次利用が可能となるエコシステムの構築を目指している。日本では、二次利用の全面的な環境整備にまで至っていないが、例として国が主導する「全ゲノム解析等実行計画」では、約10万人のがんと難病の患者に早期の診断や治療法を提供するとともに、蓄積されたデータを研究・創薬に活用するための基盤づくりが進められている。
このような医学研究とデータ利活用の推進にあたっては、遺伝情報に基づく不利益防止のための法整備、プライバシー保護の手立て、解析結果の伝達が与える影響への配慮など、患者や市民の権利保護が喫緊の課題となるだろう。
しかし、全ゲノム解析研究とデータ利活用に対する患者や市民の態度は十分明らかにされていない。そこで、市民視点での期待や懸念を把握し、必要な配慮や支援を検討するための手掛かりとして、全ゲノム解析研究に対するがん患者と家族対象の意識調査、希少難治性疾患患者・家族との意見交換会を実施した。
本セミナーでは、これらの調査結果をもとに倫理的課題を整理するとともに、欧州と日本のデータ利活用をめぐる現況を紹介したい。また、責任あるデータ共有をめぐる議論や、欧州内で導入が進むがんサバイバーの「忘れられる権利」について紹介し、小児・未成年者の権利保護との接点についても考えたい。