プロトオンコジーンTCL1とAktキナーゼの活性化機構
学友会セミナー
2004年開催 学友会セミナー
開催日時: | 平成16年5月24日(月) pm3:00~4:30 |
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開催場所: | アムジェンホール大会議室 |
講 師: | 野口昌幸 |
所 属: | 北海道大学遺伝子病制御研究所 癌生物分野 |
演 題: | プロトオンコジーンTCL1とAktキナーゼの活性化機構 |
概 要: | Aktは細胞生存に重要なセリンスレオニンリン酸化酵素であり、その異常な活性化がさまざまな癌や血液腫瘍を引き起こす。演者らのグループはAkt活性化のメカニズムを調べる目的でYeast-Two Hybrid法によりAktに結合しその活性化を制御する蛋白を検索し、ヒトT細胞白血病やリンパ系腫瘍を引き起こすプロトオンコジンオンコジンTCL1がAktと結合し重複合体の形成を促し、そのAKt-TCL1重複合体の内部でAktが活性化されることを示した。この結果は、オンコジーンTCL1がAktに直接結合しAktの活性化を促す「Aktの活性補助因子」であることを示した。またTCL1がAkt分子間での重合形成する結果、TCL1が二つのAkt分子の間でAktセリン472/473基の燐酸化を相互に促進するAkt活性化の分子学的な機序を明かにした。 PCR法を応用したTCL1オンコジーンのアミノ酸ランダムライブラリーを作成しTCL1とAktの結合ならびに TCL1の重合形成に必要なアミノ酸部位を同定し、TCL1とAktの結合、ならびにTCL1の重合形成が共に「Akt活性補助因子」としての機能(アポトーシスの抑制、細胞増殖、核内移行など)に重要であることを示した。さらに、このTCL1-Akt複合体の構造、機能解析に基づきAKT結合に必須なアミノ酸部位を決定し標的ペプチドを作成し、in vitro Kinase AssayによりAkt燐酸化に与える影響をスクリーニングした。このひとつのペプチドAkt-inはGST-Pull-Down法により3種類のAKTのpleckstrin homology domainに結合する。 In vitro kinase assayにおいてこのペプチドはAKT特異的に活性化を抑制した。 NMR chemical mapping study においてphopshoinositide 結合部位(VL1 loop)を変位させ、 phosphoinositide-pull down assay でphosphoinositideの結合を抑制し、その結果、AKTの膜移行ならびにその活性化を抑制した。 in vitroにおいて細胞増殖を抑制し、dexamethasoneによるアポトーシスを増強した。 Akt -inはC57B6マウスに移植したQRsP-11(マウス線維芽細胞腫)の増殖を効果的に抑制し、マウスの平均余命を優位に延長した。組織学的には細胞のdegradation,TUNEL法によるアポトーシスの増加、免疫学的染色によりAktの活性化の抑制も認めた。この一連の研究成果は、アポトーシス制御などの基礎的研究のみならず、TCL1遺伝子の過剰発現や癌抑制遺伝子PTENの異常によるAktの活性化が背景となるヒト悪性腫瘍などの治療薬開発につながることも期待される。 |
世 話 人: | 高津 聖志、○北村 俊雄 |