English
Top

癌転移抑制遺伝子の役割と機能

学友会セミナー

学友会セミナー

2006年開催 学友会セミナー

開催日時: 平成18年7月3日(月) 14:00~15:00
開催場所: 医科学研究所総合研究棟8Fマルチセミナー室
講  師: 渡部 浩之輔 教授
所  属: School of Medicine, Southern Illinois University
演  題: 癌転移抑制遺伝子の役割と機能
概  要:

癌の主たる死亡要因は転移によるものであるが、この分野での分子生物学的研究は、その過程の複雑さとモデルシステムの欠如により、立ち遅れていた。しかしながら、近年の目覚しい研究技術の進歩とともにこの分野にも数々のブレイクスルーがなされ始めている。癌細胞の転移が成立するためには、原発巣からの離脱、リンパ管や血管への浸潤、免疫攻撃からの回避、そして他臓器の環境への適合などの複雑なステップを経なければならず、その間、多数の遺伝子の働きが関与している。 癌転移抑制遺伝子と呼ばれる遺伝子群には現在約10以上のものが知られており、これらの遺伝子は発癌そのものに関与することはないが、転移の過程のみを特異的に抑制する機能を持っている。我々はこの転移抑制遺伝子である Kai-1とDrg-1の前立腺癌、及び乳癌における役割と機能について研究を行ってきた。 Kai-1は膜貫通蛋白であるが、この分子と結合するターゲットをスクリーニングした結果、血管内皮細胞上に発現するGp-Fyと呼ばれる膜蛋白と結合することが分かった。この結合はKai-1の下流のシグナルを活性化し、細胞をセネッセンスに向かわせる。すなわち、Kai-1の転移抑制効果は、がん細胞が血管内に浸潤した時点でのみ作用し、内皮細胞上のGp-Fyの発現を必要とする。実際にGp-Fyのノックアウトを用いた実験では、がん細胞がKai-1を発現していても高頻度の転移を示した。これらの実験結果は癌細胞の転移のメカニズムに対して、新しいコンセプトを提示するとともに、Kai-1のシグナルをオンにさせる事によって癌細胞の増殖を停止させることの出来る治療薬の開発の可能性を示している。 我々はまた、他の転移抑制遺伝子であるDrg-1についても同様のアプローチで、この蛋白がWntシグナルの活性化を抑制し、その下流にある転写因子のATF3の発現を抑えることによって転移をブロックする事を発見した。これらの知見は Wntシグナルが発癌だけでなく、転移の過程にも深く関与していることを示唆しており、このシグナル系の蛋白が、転移治療のための新しいターゲットとなりうる事を示している。

世 話 人: ○中村 祐輔、片桐 豊雅