発がん過程におけるIKK/NF-κB活性化の役割
学友会セミナー
2006年開催 学友会セミナー
開催日時: | 平成18年4月11日(火) 16:00~17:30 |
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開催場所: | 東京大学医科学研究所 本館2階会議室 |
講 師: | 前田 愼 博士 |
所 属: | 朝日生命成人病研究所消化器科部長 |
演 題: | 発がん過程におけるIKK/NF-κB活性化の役割 |
概 要: | 消化器領域において、慢性炎症と発癌との関連はきわめて密接である。例えばヘリコバクターピロリによる慢性胃炎から胃癌、ウイルス性肝炎による肝細胞癌、潰瘍性大腸炎、クローン病からの大腸癌などの発生である。疫学的にはこれらの関連は明らかであり、また、炎症を抑えることによる発癌の抑制に関しても、その証拠がそろいつつある。しかしながら、一方でなぜ慢性炎症が発癌と関連するのかというメカニズムは依然として不明のままである。IKK/NF-κB活性化経路は炎症、免疫、抗アポトーシスなどに関わる極めて重要なシグナル伝達経路である。IKK複合体における主要なキナーゼである IKKβノックアウトマウスは胎生致死のため、肝細胞特異的にIKKβをノックアウトすることにより、肝臓における発癌への関与の検討を行った。発癌剤としてジエチルニトロサミンを用いて、肝発癌の程度を観察したところ、腫瘍数は3倍程度、さらに大きさも増加し、寿命も明らかに短縮した。発癌剤投与における急性反応を解析すると、ノックアウトマウスにおいて、活性酸素の増加に伴う、肝細胞死の増加が観察された。さらに、その細胞死は炎症反応を伴い、肝臓の再生を増加させた。 IKK/NF-κB経路は血球細胞系において炎症性サイトカインの産生に極めて重要であり、一方肝臓ではIL-6やTNFαなどいくつかの炎症性サイトカインは肝臓の増殖因子であることが明らかとなっている。そこで、肝細胞に加えて血球系細胞においても IKKβをノックアウトしたマウスを用いて、同様の発癌モデルを用いた検討をしたところ、肝細胞癌の発生が抑制された。さらに、このマウスにおける肝再生は発癌剤投与後、および肝臓切除により低下していることが明らかとなった。以上より肝癌における発癌の成立過程において血球系細胞のNF-κB活性化は重要な癌促進因子であり、その抑制は特に炎症反応が強くNF-κB活性化の亢進している病態においてはきわめて有力な癌抑制治療になりうると考えられた。 <参考文献> Maeda S. et al. Cell 121, 977-90 (2005) |
世 話 人: | 井上純一郎、清木元治 |