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HIV慢性持続感染成立機序の解析:エイズワクチン開発に向けて

学友会セミナー

学友会セミナー

2005年開催 学友会セミナー

開催日時: 平成17年10月18日(火) 18:00~19:30
開催場所: アムジェンホール(大会議室)
講  師: 俣野 哲朗
所  属: 東京大学大学院医学系研究科微生物学講座 助教授
演  題: HIV慢性持続感染成立機序の解析:エイズワクチン開発に向けて
概  要:

HIV感染症では、抗体・細胞傷害性Tリンパ球(CTL)等の適応(獲得)免疫反応が誘導されるにもかかわらず慢性持続感染が成立する。したがって、単なる適応免疫反応誘導がウイルス複製制御に直結するわけではないため、エイズワクチン開発を考えるうえで、従来のワクチン(初感染の模倣)を超えた新たな視点が必要である。エイズワクチン開発研究の本質的課題がここにある。  しかし、これまでのエイズワクチン開発研究では、従来のワクチン開発と同様、適応免疫系の代表的エフェクターである中和抗体およびCTLの誘導のためのデリバリーシステム開発といった技術的観点に重点がおかれてきた。その結果、これらデリバリーシステムについてはめざましい進展がみられたが、結局のところ、前臨床試験にてウイルス複製制御(エイズ発症阻止あるいは感染拡大阻止)に結びつく根拠は得られず、それにもかかわらず臨床試験に進んだものも有効性を示すことができずに終わってきた。したがって、エイズワクチン開発研究の現状で最も重要なことは、ウイルス複製制御に結びつく論理的基盤の確立・機序解明である。

我々は、エイズワクチン開発に向け、HIV慢性持続感染成立機序の解明およびHIV複製制御のための論理的基盤の確立を目的として、サルエイズモデルを用い、適応免疫反応の存在下におけるウイルス複製の解析を進めている。これまで、HIV複製抑制に重要と考えられているCTLに着目し、ワクチン誘導CTLによるウイルス複製制御の可能性を追及してきた。まず第一に、極めて優れたCTL誘導能を有するセンダイ(SeV)ウイルスベクターを用いたプライムブーストワクチンシステムを樹立し、SHIV89.6P感染サル急性エイズモデルにおいて、このワクチンシステムのSHIV複製制御効果を明らかにした。さらに、急性エイズよりウイルス複製制御が困難と考えられているSIVmac239慢性持続感染モデルにおいて、このシステムを用いたワクチン誘導CTLにより SIV複製制御が可能であることを世界に先駆けて明らかにした。この結果は、CTL誘導ワクチンの論理的基盤として極めて重要である。さらに、SIV複製制御サルと非制御サルとの比較から、CTL誘導レベルよりも、 CTLの質(認識エピトープ)の違いがSIV複製制御の有無に相関することを見出した。

一方、このCTLの質についての解析に必要なMHC情報の確立したサルモデルとして、単アレルレベルではなくハプロタイプレベルでMHCを共有するサル群の樹立を開始した。このようなサル群の樹立は、他に例がなく、また、我々が使用するビルマ産アカゲサルのSIV感染モデルは、欧米で主に使用されているインド産アカゲサル感染モデルと比較して、ウイルス量・発症経過等の点でよりヒトHIV-1感染症に近いモデルであることが指摘されており、最も優れたエイズモデルの確立に結びつくと期待される。現在、このサルモデルの確立を進めるとともに、このモデルを用いて、複製制御能の高いCTL誘導に結びつく抗原(エピトープ)選択のための論理的基盤の確立に向けて研究を続けている。

世 話 人: ○ウイルス感染分野 河岡 義裕
感染症分野 岩本 愛吉