東京大学医科学研究所

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学友会セミナー

学友会セミナー:2017年9月19日

開催日時: 2017年9月19日 18:00  ~ 19:00
開催場所: 1号館  講堂
講師: 石井 俊輔
所属: 国立研究開発法人・理化学研究所・副理事
演題: 環境要因によるエピゲノム変化の遺伝
概要:

様々な環境要因により変化した形質が遺伝する現象は、ラマルクによる獲得形質の遺伝に似た面もあることから、多くの研究者の興味を集めて来た。また精神ストレス、病原体感染、栄養条件などの影響が長期間持続する現象は、精神疾患の持続、衛生仮説、胎児プログラミング仮説などとも関連し、疾患発症メカニズムの理解にも重要である。最近の研究により、これらの現象がエピゲノム変化の記憶・遺伝であることが示されて来た。しかし、環境要因によるエピゲノム変化誘導メカニズム、エピゲノム変化の遺伝メカニズム、環境要因による形質変化の生物学的意義など、多くの事柄が不明である。私達はATF2ファミリー転写因子がこのような現象に重要な働きをしていることを見出し、研究している。
  ATF2は私達が最初に同定した転写因子であり、bZIPタイプのDNA結合ドメインを持ち、ATF/CREBスーパーファミリーに属する。そして、様々な環境要因に呼応して、ストレス応答性キナーゼp38によりリン酸化されるという特徴を持つ。これまでの私達を含めたいくつかのグループによる、分裂酵母、線虫、ショウジョウバエ、マウスを用いた研究から、以下の事が示された。1)ATF2関連因子は、ストレスがない時にヒストンH3K9トリ或はジメチル化酵素をリクルートして、ヘテロクロマチン形成に関与し、転写を抑制する。2)ATF2関連因子は、RNAi とは独立にヘテロクロマチン形成に関与する。3)熱ショックなどの外部環境ストレス、精神ストレス、病原体感染などにより、ATF2関連因子がp38でリン酸化され、クロマチンから遊離すると、ヘテロクロマチンが壊れ、転写が誘導される。4)ストレスが無くなっても、ヘテロクロマチンは完全には復元されず、部分的に壊れたヘテロクロマチンとbasalな発現レベルの高い状態が長期間維持され、場合によっては遺伝する。
  私達は現在、マウスとショウジョウバエを用いて、栄養状態と精神ストレスによるエピゲノム変化がATF2関連因子を介して起こり、それが次世代に遺伝することを見出している。本セミナーでは、環境要因によるエピゲノム変化の遺伝についての研究の現状を紹介したい。

世話人: 〇中西 真 (癌防御シグナル分野)
  山梨 裕司 (腫瘍抑制分野)