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乳癌の浸潤転移性獲得機序:根幹的因子を探る

学友会セミナー

学友会セミナー:2008年01月10日

開催日時: 2008年01月10日 16:00~17:00
開催場所: 1号館2階会議室
講師: 佐邊壽孝
所属: 大阪バイオサイエンス研究所
演題: 乳癌の浸潤転移性獲得機序:根幹的因子を探る
概要:

乳癌は、若年齢からの罹患率や死亡率が高い為、がんの中でもその制圧が強く求められている。乳癌は他の癌に比べバイオインフォマテイクスが圧倒的に進んでいるにもかかわらず、どのようにして浸潤的形質を獲得するのか、殆ど不明であった。
Arf GTPasesは低分子量G蛋白質の中で最も早く真核生物に出現し、膜の輸送や再構成に根幹的役割をなす。私共は、インテグリン裏打ち蛋白質であるパキシリンに幾種類かのArfGAP (GTPase-activating protein for Arfs)が会合し、細胞運動制御などに関与することを見出した事を契機とし、Arf活性と細胞の運動性や非運動性制御との関連を調べて来た。ここでは主に、乳癌細胞の浸潤的形質獲得に、Arf6活性が重要な役割をしている事を紹介する。Arf6の活性化や下流シグナルの詳細な分子機構も明らかにしている。この経路は非浸潤的乳癌や通常の正常乳腺上皮細胞では殆ど使われておらず、構造的にも特異であることから創薬の分子標的になり得る。乳癌でのこの経路の増強は、主に当該遺伝子群転写以降の変化であった。細胞間接着の維持と破壊や、血管新生にもArf6の活性制御が根本的役割をしていた。生物学は多様性との戦いでもあるが、一方、根幹的メカニズムの解明は癌のような「多様な」疾患を考える上でも欠かせない。Arfとその経路が、細胞の運動性/非運動性制御や、癌の浸潤/転移性獲得過程において根幹的なものの一つであるのかを考えたい。

世話人: ○山本雅、井上純一郎