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歯牙象牙質形成と象牙質シアロリンタンパク(DSPP)

学友会セミナー

学友会セミナー:2007年12月18日

開催日時: 2007年12月18日 16:00 ~ 17:00
開催場所: アムジェンホール大会議室
講師: 山越 康雄
所属: ミシガン大学歯学部生体材料科学講座
演題: 歯牙象牙質形成と象牙質シアロリンタンパク(DSPP)
~DSPPを構成するドメインタンパクの構造、プロセッシング及び機能について~
概要:

象牙質は歯の大部分を占める硬組織で、内部の歯髄や周囲のエナメル質及びセメント質を支持した形で存在する。象牙質は象牙芽細胞から合成・分泌された有機性基質が石灰化することで形成されるが、その有機性基質はほとんどがコラーゲンで、残りの約10%が非コラーゲン性タンパク質(noncollagenous protein: NCP)である。NCP中、最も多いのは象牙質シアロリンタンパク (dentin sialophosphoprotein: DSPP)で、象牙芽細胞にて合成後、このタンパク質から象牙質シアロタンパク (dentin sialoprotein: DSP)、象牙質糖タンパク (dentin glycoprotein: DGP)、象牙質リンタンパク (dentin phosphoprotein: DPP) が生成することが知られている。
象牙質の形成過程において、象牙質はその基本構造を有するようになるが、まず象牙芽細胞はその細胞質突起を伸長しながら歯髄側に後退するようになり、象牙細管という構造を有するようになる。象牙細管の周囲には高度に石灰化した環状の象牙質である管周象牙質が存在し、管周象牙質の間には象牙芽細胞の主要分泌産物である管間象牙質が存在する。また象牙質と象牙芽細胞間には未石灰化象牙質基質の象牙前質と呼ばれる領域も存在する。DSP、DGP、DPPがこれら象牙質の基本構造の形成にどのように関与しているのかまだ明らかにされてはいない。また、組織工学による歯の再生のためのscaffoldとして、DSP、DGP、DPPの有用性を検討するうえでも、それらDSPP由来タンパク質の構造や象牙質形成における役割を解明することは重要である。
本講演ではDSPPの象牙質中でのプロセッシングの解明と、それにより生成した由来タンパク質の構造解析の研究成果及び象牙質形成におけるそれらの考えられる機能を紹介する。
ブタ象牙質中のDSPはN型及びO型糖鎖とコンドロイチン6硫酸鎖が結合するプロテオグリカンであること、DGPはN型糖鎖を含むリン酸化糖タンパク質で、N末端アミノ酸が異なるいくつかのタイプが存在することが判明した。DPPは高度にリン酸化された強酸性タンパク質であり、電気泳動上では少なくとも3つのバンドが現れるが、それらの多様性は遺伝子多型によることが明らかになった。また、DSPPは象牙芽細胞により合成・分泌後、早い時期にまずDGP領域を含むDSPとDPPに、その後、象牙質中のMMP-2によってDSPとDGPにプロセッシングされることが判明した。
DPPは象牙質と象牙前質のいわゆる石灰化前線に局在することが以前から報告されているのを考えるとDPPは強酸性リン酸化タンパク質として管間象牙質の形成に関与することが考えられる。またDSP抗体を用いた免疫染色ではDSPが管周象牙質に局在することが報告されているので、DSPはプロテオグリカンとしてこの形成に関与すると思われる。

世話人: ○各務秀明 大海 忍