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ウイルスの特性を理解し、そして利用する:“Made in Japan”となる悪性腫瘍に対する新規治療法の確立を目指した先端医療技術開発

学友会セミナー

学友会セミナー:2007年11月19日

開催日時: 2007年11月19日 14:00~15:00
開催場所: 1号館2階会議室
講師: 中村 貴史 博士
所属: 独立行政法人 科学技術振興機構 さきがけ研究者
演題: ウイルスの特性を理解し、そして利用する:“Made in Japan”となる悪性腫瘍に対する新規治療法の確立を目指した先端医療技術開発
概要:

現在世界中において、生きたウイルスを利用して癌を治療するウイルス治療(Virotherapy)に関する前臨床研究、および臨床治験が積極的に行われている。我々が注目している弱毒化麻疹ウイルスは、世界中でワクチンとして利用され、その効果と高い安全性が確立されている。その一方で、種々の癌細胞に感染し、強力な細胞融合により癌細胞を溶解しながら死滅させる特性を有する。そして興味深いことに、正常細胞よりも癌細胞に選択的に感染し、細胞融合を誘導する。このウイルスは、2つのレセプター(CD46、又はSLAM)にウイルスH蛋白質が結合することによって、様々な正常細胞、および癌細胞に感染する。そこで、2つのレセプターとウイルス感染、および細胞融合との関係を解析した結果、この癌細胞への選択的感染は、ウイルスレセプターCD46に依存していることを見出した。
CD46は、赤血球を除くすべてのヒト細胞に発現し、自然免疫の一つである補体の活性化を制御する膜タンパク質である。又、ヒトB亜群アデノウイルスやヒト6型ヘルペスウイルスのレセプターとしても知られている。一方、SLAM(CD150)は、活性化されたリンパ球、単球、および成熟樹状細胞に発現し、細胞内へシグナルを伝達する膜タンパク質である。この特性により、麻疹の発症に随伴するリンパ球減少症や免疫抑制疾患との強い関与が示唆されている。それゆえ、高力価のウイルスを投与する癌治療においては、その有効性、および安全性の低下につながる可能性が考えられる。そこで、より効果的で安全なVirotherapyを開発するため、治療を必要とする特定の癌細胞にのみ感染する標的化ウイルスの開発を試みた。この過程では、分子生物学的な手法を広汎に用いたリバースジェネティクス法により、麻疹ウイルスと宿主の相互作用を解明し、その知見から感染制御を試みることよって、癌細胞特異的に感染するウイルスの開発に成功した。
現在は、1)この標的化ウイルスを作出するためのテクノロジーを利用して、ウイルスに多種多様な一本鎖抗体を提示させた革新的抗体ディスプレイライブラリーを構築し、その中から治療薬、および診断薬と成り得る悪性腫瘍特異的抗体を同定するシステムの開発、2)Virotherapyと他の治療法を併用することにより、それらのシナジー効果から抗腫瘍効果を増強させる新しいストラテジーの開発、3)日本国内で分離された様々なウイルスのスクリーニングにより、強力に癌細胞を死滅させる特性を持つ新しいウイルスシードの探索と解析に焦点を当てており、“Made in Japan”となる悪性腫瘍に対する新規治療法の確立を目指した先端医療技術開発を進めている。

世話人: ○井上 純一郎、俣野 哲朗