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「細胞接着分子 TSLC1/IGSF4 によるヒト腫瘍抑制機構の解析とその意義」

学友会セミナー

学友会セミナー

2006年開催 学友会セミナー

開催日時: 平成18年9月26日(火) 16:00~17:30
開催場所: アムジェンホール大会議室
講  師: 村上 善則 博士
所  属: 国立がんセンター研究所がん抑制ゲノム研究プロジェクト
プロジェクトリーダー
演  題: 「細胞接着分子 TSLC1/IGSF4 によるヒト腫瘍抑制機構の解析とその意義」
概  要:

ヒトのがんは多数の遺伝子異常の蓄積により多段階を経て発生、進展する。演者らはその鍵となる分子群を同定し、がん化と進展の分子機構を解明し、診断、治療に応用することを目的として、まずヒトゲノム断片の肺がん細胞への移入による腫瘍原性の抑制を指標とした機能的相補法を用いて、第11染色体q23上の新規がん抑制遺伝子TSLC1/IGSF4を同定した。TSLC1は免疫グロブリン・スーパーファミリー細胞接着分子群に属し、大部分の上皮で発現するが、肺がん等多くの腫瘍の30-60%ではメチル化等の2ヒットにより不活化し、予後因子となる。次にその機能解析を行い、 TSLC1がアクチン結合蛋白質4.1群やPDZ領域を含む膜結合性グアニレートキナーゼ様分子群と結合して上皮様細胞形態の形成に関わり、実験的に上皮間葉転換を抑制することを見出した。また遺伝子欠損マウスは精子細胞の接着障害による雄性不妊を示し、ヒト不妊症への関与も示唆される。一方、驚くべきことにTSLC1は成人T細胞白血病(ATL)では高発現し、その浸潤能を高めると考えられる。上皮でのがん抑制とATLでの浸潤促進というTSLC1の二面性は、組織構築と下流経路の相違に因ると考えられ、病態に即したがん研究の必要性を示している。本セミナーでは、TSLC1を中心とする細胞接着分子群のヒトがんにおける意義を、遺伝子発現に立脚した独自の解析法を交えて紹介したい。

世 話 人: ○井上 純一郎、清木 元治