東京大学医科学研究所

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所長メッセージ

所長就任挨拶

2007年04月02日

3月末で山本前所長が任期を終了されました。昨年12月の教授総会で次期所長として選出されて、本日より私が所長を務めさせていただくことになりましたので、新所長として皆様にご挨拶申し上げます。
まず、前任者の山本先生には、4年間、医科研の発展にご尽力いただきましたことに対して、深く感謝申し上げます。この間に、大学の法人化という激変がありましたが、山本先生は着々と医科学研究所の発展に向けた試みをされてきました。例えば、新しい大学院、メデイカルゲノム専攻が新領域創成科と医科学研究所が協力することにより立ち上がりました。その結果、研究所には多くの大学院学生が来るようになり、優秀な若者たちがキャンパスにあふれる様になりました。また、文科省ライフサイエンス課の支援による感染症拠点形成プロジェクトにより、北京に医科研事務所が開設され、科学技術院の二つの研究所にそれぞれ共同研究のための研究室が立ち上がりました。このことによって、国際連携の中でも今までとは違う一歩を踏み出しました。また、これと関連して、文科省学術機関課の支援による感染症ネットワークの拠点として、感染症国際研究センターができ、新しいグループが研究をスタートしています。大学法人化の混乱の中でも、研究所の歩みを止めずに着々と前に進み続けられた山本先生に敬意を表したいと思います。これからはまた研究生活に戻って、ゆっくりとサイエンスを楽しんでいただきたいと思いますが、在職教授の中では唯一の所長経験者として、今後も研究所の運営にご協力とご助言をいただきたいと思います。

簡単に私自身の自己紹介をしておきます。私は平成9年に金沢大学がん研究所から医科学研究所に赴任してきました。以来、癌・細胞増殖部門の腫瘍細胞社会学分野を担当しています。また、4年前からは副所長として主として総務係の仕事を担当してきました。従って、執行部のメンバーとしての経験はありますが、これからは研究所の最終責任者として、医科研の将来に関わる多面的な問題に対して判断を下していかねばなりません。色々な局面で、自分の能力を超える事も出てきますので、一人で無理をせず、皆様のご協力を得ることによって、これからの2年間、所長としての職責を果たしてゆく所存です。

さて、これからどのように研究所を運営するかということのためにも、前執行部での4年間を振り返ってみることは重要だと思います。もっとも大きな出来事は国立大学の法人化だったと思います。これは国立大学始まって以来のもっとも大きな変化です。それまでは、大学の運営は国によって全面的にサポートされており、経営的に保障されたなかで大学の自治を謳歌することができました。しかし、独立法人化することによって、大学は独立した運営体として経営責任が問われる様になりました。したがって、大学の自治は依然として重要ですが、大学の経営に照らし合わせてみての許容限度内という制限を意識せざるを得なくなりました。各部局の運営も同様です。小宮山総長は、法人化後の大学と部局の関係を、自立分散協調という言葉で表現されていますが、企業で言えば、親会社と決算で連結対象となる小会社のような関係になってきたわけです。法人化直後は、我々の意識も依然として国家公務員であったころと異なる実感はありませんでしたが、だんだんと、独立法人としての大学と各部局の関係が理解される様になってきたと思います。医科学研究所の運営も、アカデミックなミッションを達成することが最重要課題であることは無論ですが、経営的にも持続可能なプランで目標を達成する必要があります。

独立した経営体になったとはいえ、依然として大学の運営は文部科学省からの運営費交付金に大きく依存しています。しかし、それも年度ごとに段階的に削減されようとしています。従って、我々は研究所運営の効率化を図るとともに、新たな資金源を確保する必要があります。無論、政府からの競争的資金を獲得するための持続的な努力が必要です。更には、我々の研究活動も、知的創造にとどまらず、それを社会的な価値にまで高めることを考え、更には経済的な価値に如何すれば変換できるのかということについても組織的な対応ができる体制を作っていく必要があります。このことは、大学が経営的に潤うためにも必要なことですが、大学の成果の社会還元の面からも重要なことです。こうやって運営費交付金のみに大きく依存した大学経営の体質から脱皮し、資金的にも余裕が出てきたときに、法人化する際のメリットとして考えられてきた自由度を運営に生かすことが出来るようになると思います。また、現在のちょっと萎縮した状況から、思い切ったチャレンジができる体質へと脱皮できると考えます。またもう一つ重要な変化として、大学が法人化することによって、我々は民間の一事業所として関連する様々な法令を遵守する責任が生じました。それに対応するために随分やるべきことが増えましたので、以前より格段に忙しくなったというのが実感です。

大学に対して非常に多くのことが求められるようになった昨今ですが、我々が本来担うべき使命を見失ってはならないと思います。この点で、我々の原点を再確認した思いがしたのは、3月に定年を迎えられた教授の記念講演会でした。今年は4人の先生方が退職されたのですが、いずれも世界の学術の発展に大きく貢献された先生です。講演を聴きますと、若いころのちょっとした偶然から現在の研究テーマのきっかけをつかまれています。しかし、当時はその重要性についてはあまりよくわかってはいませんでした。丹念にその周辺を解きほぐす研究を継続して、定年を迎えるころになって振り返ってみると、歩いてきた道が一つの学問体系となっており、着目した分子は今では多くの研究者にとって良く知られた蛋白質や遺伝子の名前になっている。そして今では、生命現象や病気の仕組みを理解する上で必須の知識になっています。いずれも大きな感動を与える記念講演で、深く感銘を受けました。目的指向型の研究はその意義は明瞭で、初期から社会的な評価も得やすいものですが、海のものとも山のものともわからない手がかりから出発して新しい学問を創造するという研究は、大学のようなところでなければできないものと思います。最近の世の中は、短期間のうちに成果を求められて、先の見えやすい研究へと流れやすくなっています。その中あっても、壮大な夢を持ちながら研究できる環境を作り出すことが学問の発展にとっても次世代の育成にとってもとても重要なことであると考えています。

こういった学問のスピリットを持ちながらも、医科学研究所の最終的なゴールは研究成果を医療へと還元することです。医科研は、そのために、大学附置研究所としては唯一の研究所病院を持っています。最近の医学研究では、インビトロの研究で得られたアイデアは動物個体のレベルで証明されることを要求しますし、病気の理解はそれを最終的に治療によって検証しようと考えるようになりました。基礎研究の成果を臨床の場で実証する試みは最近ではトランスレーショナル・リサーチ、略してTR、という言葉で呼ばれています。医科学研究所では北里柴三郎博士が伝染病研究所を設立した当初から、病原菌を純粋培養によって同定する基礎研究を行う一方で、病院を持ち、研究成果を抗血清やワクチン作りに応用して病気の予防や治療に役立てることを実践してきました。TRという言葉がない時代からです。そういった意味で医科研病院は、医育機関としての大学病院とは明らかに異なる歴史と使命を持った病院です。いまやTRは多くの大学病院でもチャレンジすべき目標の一つに掲げられる様になりました。こういった状況は、医科研病院が一貫して掲げてきたことが、まさしく世の中に広く受け入れられるようになったということであり、そのために努力してこられた諸先輩方に敬意を表したいと思います。機動力プラス高い安全性と専門性を持った先端的なTR病院として機能できるように山下病院長をはじめとする病院スタッフや先端医療研究センターの皆さんと協力しながら努力していきたいと思います。また、こういったTRを可能とする経営基盤をどのように確保するかについても、様々な可能性を探っていく必要があると考えています。

最後に、医科学研究所の使命は、先駆的な研究成果を出すこと、その成果を医療を通じて社会に還元すること、次世代を担う優れた若手研究者を育成することに尽きます。その中心的な役割は高い能力を持った教員が担いますが、教員がベストパフォーマンスを出して目標を達成するためには、事務系、技術系、病院のスタッフの皆さんによって支えられる組織があって初めて可能になります。大きなチャレンジを可能にし、それを成功に導ける研究所を作り上げていきたいと思いますので、よろしくご協力のほどお願いいたします。