東京大学医科学研究所

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所長メッセージ

第40回東京大学医科学研究所創立記念シンポジウム所長挨拶

2013年05月31日

 本日はご多用な中、平日にもかかわらず、「東京大学医科学研究所第40回創立記念シンポジウム」に、このように多数の方々のご参加をいただき、厚く御礼申し上げます。昨年の伝染病研究所から創立120周年、そして医科研に改組されてから45周年という節目の年に引き続き今年もこの講堂で所内外の著名な先生方からの医科学最先端研究を拝聴できることを、誠に嬉しく思っております。

 東京大学医科学研究所(以下、医科研)は、121年前に北里柴三郎先生が創立された私立衛生会附属伝染病研究所(以下、伝研)を前身としており、創立初期の頃より附属病院を有しておりましたのは特筆すべき点です。すなわち、当初から研究室からベッドサイドへ、ベッドサイドから研究室へ(Bench to Bed, Bed to Bench)の精神に基づき、様々な感染症に苦しむ人々の治療そして予防に向けた研究と医療の両方が行われていたということを意味しています。この場をかりて、北里先生の先見性とそのリーダーシップに敬意を表します。

 一方で、このシンポジウムの第1回目が行われた40年前頃になると、経済成長とともに社会が発展して公衆衛生が向上し、感染症だけではなく多様な疾患が問題となってきました。さらに、学術分野では分子生物学、細胞生物学、発生工学、それらに基づく医科学などが著しく進展し、生命さらには疾患をシステムとして捉える研究が進みました。そのような所を取り巻く学術及び社会的環境の変化を捉えて、我々の先輩達の努力により、46年前に伝研は医科研へと発展的な改組を遂げ、学術水準の向上とそこから生まれる先進医療・医薬の提供をもって社会のニーズにこたえる組織となりました。それに伴い、研究所の使命は感染症の克服を目的とした研究はもとより、がんや免疫疾患などその他の難治性・希少疾患を対象にした基礎研究とそれを基盤とした新規予防・治療法、ワクチン・創薬開発へと拡大し、発展してきました。そして現在、私たちの使命を完遂するためには、我々のルーツである感染症研究にはじまり、がん、免疫学、ゲノム医科学、再生医科学、その土台となる基礎医科学、さらにはそれらの研究成果を臨床につなげる橋渡し役となるトランスレーショナルリサーチについて、最先端基礎・臨床研究の戦略的融合を通して世界の医科学を継続的に先導・実践することは非常に重要です。

 以上の背景を踏まえ、今回のテーマは「難治性疾患におけるシグナル伝達システムの異常調節(Dysregulation of signal transduction systems underlying intractable disorders)」とさせていただきました。トランスレーショナルリサーチへと発展させる上での基盤となる基礎的な医科学研究の重要性について、所内外の研究者の方々に最先端の研究を基礎・臨床の視点からお話していただきます。
 今回のテーマであるシグナル伝達研究は、環境の変化に対する細胞の応答や適応に関して調べる医科学・生命科学の基礎的な研究です。特筆すべきは、過去40年間のノーベル生理学・医学賞の中で、その約30%がシグナル伝達の分野における発見となっている点です。これは、シグナル伝達に関する知見が、分子生物学のみならず、医科学、がん、免疫学、微生物学、発生生物学、再生医科学、神経生物学など、医科研で進められている医科学・生命科学研究のほぼ全ての分野において不可欠であるためと言えます。そして、その研究成果は病気の解明そして新規予防・治療法の開発、創薬などに繋がります。

 そこで医科研内外の多くの最先端医科学研究者の中から今回、所外からは免疫応答を抑制する制御性T細胞の発見とその研究を始めとし、自己免疫寛容の誘導と自己免疫疾患の発症機構の解明について、まさに世界の免疫学をリードしておられる大阪大学免疫学フロンティア研究センターの坂口志文教授、ピロリ菌感染を基盤とする胃発がんにおいて、分子レベルから個体レベルに至る先端的研究を推進しておられる東京大学医学系研究科の畠山昌則教授、そして全世界で3億人以上の患者が罹患し、現代社会の深刻な問題となっている2型糖尿病、さらにその予備軍であるメタボリックシンドロームの研究で世界の第一人者でおられる東京大学医学部附属病院長の門脇孝教授をお迎えし、最先端の知見と成果をご講演いただきます。一方で,医科研内の多くの最先端医科学研究者の中からは、難治性の神経筋シナプス変性症に関するシグナル伝達の第一人者である山梨裕司教授、また造血系細胞の悪性腫瘍に関する分子生物学の研究のリーダーである北村俊雄教授に最新の成果を含めてご講演いただく予定です。
 
 現在私たちは「IMSUT One to GoGo プロジェクト」として、自他共に世界のトップと認める最先端医科学の研究所となるべく、日々努力を続けております。今回のシンポジウムでお話いただく内容は、私たちの目指す、世界をリードする医科学研究の推進という理念にまさに合致するものです。さらに、今回は新たにシンポジウム講演のみならずポスターのフラッシュトークおよびポスター言語の英語化にも挑みます。この挑戦は、このシンポジウムが所内行事ではあるものの、医科研から全世界に発信されたシンポジウムであることを名実ともに示すものと考えます。

 IMSUT One to Gogoでは、世界のトップへの進化を目指す上で組織の改革、改組にも取り組みます。ただし、これは医科研の偉大な先輩方の積み上げられてきた業績を基盤として、つまり“Institutional Memory”としての継続性も考慮しながら、創造的に進めていかなければいけません。医科研の第4代所長である長与又郎教授の偉大な業績とお考えに関し、同じく医科研所長を務められた故小高健教授が執筆された書物「長与又郎 日本近代医学の推進者」が昨年末に発刊されましたが、この機会にその一部の内容をご紹介出来ればと思います。ご存知の方も多いかと思いますが、長与教授は伝染病研究所の所長を14年半に渡り務められ、伝染病研究所の発展に多大なるご貢献をされたリーダーであったことは周知の事実であります。所長に就任された直後、長与教授は日記に以下の方針を記されました。ここに要約させていただくことをお許しください。

1) 伝研は私有物ではない。そのため、すべてを公平無私で行うべきである。
2) 何事よりも大切なのは、人材を網羅して養成することである。
3) 伝研は、世界最高(最上)のものを目標として、理想をできるだけ高く持ち、事の成否の如何を問わず挑戦する。

 これらは、私たちが今挑戦しているIMSUT One to Gogoの理念に全く矛盾しません。すなわち、私たちのIMSUT One to Gogoは、医科研のこれまでの偉大な先輩方と同様に、世界の医科学研究のリーダーとなることへの覚悟を示しています。そして私たちは次の世代に向けて、新規の治療法や予防法の開発、それへ向けたトランスレーショナルリサーチ、そしてそれらの基盤となる最先端基礎医科学研究を通して、人類の幸福に貢献することを誓います。今回の創立記念シンポジウム講演と医科研の若い研究者によるポスター発表が、私たちの目標を達成するための大きな礎となることは疑いありません。今後もIMSUT One to Gogoへの更なるご協力をお願いいたします。
 
 最後になりましたが、本日の創立記念シンポジウムの開催にあたりご尽力を頂いた村上善則副所長はじめ運営組織委員会の皆様(北村俊雄教授、川口寧教授、吉田進昭教授、野田岳志准教授、秋山泰身准教授、松田浩一准教授、中江進准教授、大津真特任准教授、松田尚人特任准教授)、事務部、プロジェクトコーディネーター室の皆様、そしてご講演者の先生方にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。そして、このシンポジウムへご参加いただいている皆様全員に感謝を申し上げ、また活発なご議論をお願いして私の挨拶とさせていただきます。

  
          清野宏教授・所長                        山梨裕司教授

  
           北村俊雄教授                          坂口志文教授

  
           畠山昌則教授                           門脇孝教授