English
Top

2014年 清野宏所長新年挨拶

2014年 清野宏所長新年挨拶

2014年01月07日

皆さん、新年明けましておめでとうございます。
年末年始の休暇中はご家族やご友人と穏やかで有意義な時間を過ごされ、新年の門出に向けて充分に英気を養われて、第二の我が家であるこの医科学研究所に戻って来られたことと思います。

ご存知のように、2014年は午(馬)年です。日本では、「物事が上手(うま)くいく」「幸運が駆け込んでくる」などと言い、馬は縁起の良い動物とされています。2014年はその午年の中でも甲午(きのえうま)の年です。「甲」は草木の芽が殻を破って頭を出した様子を表した象形文字であり、革新を意味します。また、「午」は十二支の中で7番目に位置することから、後半の始まりを表します。つまり、2014年は世の中の流れを変える年、明確な目標に向かって、ギヤ・チェンジし加速をする年と言えます。医科学研究所・医科研病院にとっても、IMSUT One to Gogoプロジェクトを通して様々な目標達成のためにさらに猛進する一年であり、我々の未来に向けて非常に重要な一年になると考えています。

さて、2014年の目標について述べる前に、まずは医科学研究所・医科研病院の優秀な教職員、ポスドク、大学院生による昨年度の実績をご紹介したいと思います。

まず、発表論文数ですが、今年度のデータはまだ出ておりませんので、2010年度から2012年度までのデータをご紹介いたします。2010年度:発表論文総数573本、内インパクトファクター10.0以上71本、2011年度:発表論文総数633本、内インパクトファクター10.0以上51本、2012年度:発表論文総数576本、内インパクトファクター10.0以上54本となっています。全体として、平均約1割がいわゆるインパクトファクターの高い国際ジャーナルに発表されており、平均すると毎年約600前後の論文(そのうちの10%がインパクトファクターの高い雑誌)を発表し続けていると言えると思います。これは素晴らしい業績だと思います。しかし、ここで満足せずに、是非ともこのまま努力を怠らずに更なる高いレベルの論文発表を目指し、世界の医科学発展に貢献して頂きたいと思いますし、私が誇る医科学研究所・医科研病院のメンバーならばそれができると信じています。

2013年度の外部資金獲得状況としましては、全体で457件、総額約48億円の外部資金を獲得しています。その中には、政府機関(文部科学省、JST)から、機関として採択された組織向けプログラム3件(卓越した大学院拠点形成支援補助金/担当者:古川洋一教授、村上善則教授、COI-STREAプログラム/担当者:宮野悟教授、今井浩三特任教授、部局研究力強化促進事業/担当者:三宅健介教授)も含まれます。2004年の東京大学の法人化に伴い、政府からの運営費交付金額は毎年減少の一途を辿っています。その為、それ以外での積極的な運営費及び研究費の獲得が非常に重要且つ深刻な問題となっており、我々は引き続きこのような外部資金獲得にも全員の力を注いで行かなければなりません。

さらに、2013年度は国際交流基盤の拡大と地域連携の強化という点でも大きな進展がありました。新たに国内外の3つの大学(沖縄科学技術大学院大学、湾岸諸国立大学/バーレーン、順天郷大学校/韓国)と学術交流協定を締結し、港区とも連携協力に関する協定を締結致しました。これにより、医科学研究所の国際的な学術・研究交流の範囲や可能性が大幅に拡がり、現行の中国科学院やパスツール研究所との共同研究体制に加え、国際化に向けての環境作りがまた一歩進化したと言えます。港区との連携も、地域に愛される最高医科学研究機関として世界に共に羽ばたく第一歩です。国際的且つ地域連携の環境を基盤として、実質的な共同研究基盤を整えた上での国際シンポジウムの開催、教職員および大学院学生のための学術・研究交流プログラムの立ち上げなども計画しています。東京大学は昨年、研究環境の国際化の加速を推進すべくクロスアポイントメント制度を導入致しました。本研究所幹細胞治療研究センターの中内啓光教授は、この制度を利用して今年1月1日より医科学研究所とスタンフォード大学の教授を兼任されています。このことにより、スタンフォード大学幹細胞生物学・再生医療研究所との全面的な相互協力体制のもと、本研究所幹細胞治療研究センターのグローバル化が一層促進されると期待しております。

また、昨年素晴らしい栄誉を受けられた先生もここでご紹介したいと思います。まず4月には河岡義裕教授が長年の先導的ウイルス学研究が評価され、米国科学アカデミー外国人会員に選出されました。5月には村上善則教授が高松宮妃癌研究基金学術賞を受賞、11月には今井浩三教授が紫綬褒章を受章、米田美佐子准教授が日本ウイルス学会杉浦奨励賞を受賞されました。紫綬褒章につきましては、2011年に河岡教授、2012年に笹川教授、そして2013年の今井教授と3年連続で本研究所の研究者が受章をしています。誇るべき素晴らしい業績だと思います。

医科学研究所が高い評価を頂いていることが分かるもう一つの側面として、他機関にPIとしてご栄転された4名の優秀な先生方もここでご紹介いたします。後藤典子先生、赤司祥子先生がそれぞれ金沢大学と愛知医科大学に教授としてご栄転、國澤純先生が独立行政法人医薬基盤研究所のチームリーダー、大井淳先生が帝京大学の准教授としてご栄転されました。この場にいる若手研究者の方々にも、是非、これらの先生方の後に続いて、医科学研究所・医科研病院で得た知識と経験を基に国内の他機関、さらには世界にはばたいて研究チームを率いて活躍していって頂きたいと願っています。我々医科学研究所と病院の、もう一つの重要なミッションは、次世代の医科学を牽引する人材の育成と輩出です。

そのほかに、昨年度は人事面でも数々の昇任や外部からの新規雇用があり、医科学研究所に新風が吹き込みました。醍醐弥太郎先生を医科研病院の抗体・ワクチンセンターの特任教授としてお迎えし、また、将来を期待された優秀な先生方の准教授、特任准教授、講師、特任講師などへの昇任がありました。事務部においても、新しく紺野喜久恵事務部長、平野裕士管理課課長をお迎えしました。また、この場をお借りして、この4月より国立がん研究センターの柴田龍弘先生を本研究所ヒトゲノム解析センターに教授としてお迎えすることが決定しましたことをご報告致します。柴田先生には、ゲノム解析を基礎とした腫瘍病理学領域のリーダーとしてご活躍され、ゲノム情報に基づいた未来のオーダーメイド医療の実現に向けて邁進されることを期待しております。

さて、それではIMSUT One to Gogo プロジェクトに話題を移したいと思います。これまでもご紹介してきましたように、本プロジェクトは医科学研究所の前身である大日本私立衛生附属伝染病研究所の創立から125周年、現在の医科学研究所に改組されてから50周年の大きな節目となる2017年を目指して、世界の頂点に立つ医科学研究所・病院を目指して推進しているものです。 

そして、このプロジェクトの推進するものの1つに、国際化戦略があります。医科学・生命科学分野で自他ともに認める世界トップレベルの研究所および附属病院となるためには、国際化は非常に重要な戦略の1つとなります。加えて、2020年に東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定した事を受け、これから日本社会全体の流れが積極的に国際化に向かう事が予想されます。そのような時代の流れの中で、医科学研究所は、日本を代表する学術研究機関として率先して日本社会の国際化をリードしていくことを期待されています。その中核的働きをするのが、我々の使命です。

次に、医科研財団の設立に向けても新たな一歩を踏み出す事を計画しています。前述のように、国立大学の法人化以降、東京大学に対する政府からの運営費交付金額は毎年削減され続けています。この財政的課題への対応策として、また、最先端の基礎及び臨床医科学の推進の為に柔軟で且つ積極的運営を目指す為、これまで医科研財団設立の構想を練って参り、時折折に皆さんに紹介してまいりました。2014年は構想の実現化に向けた具体的な一歩を踏み出し、将来的には財団を通して得た科学的、学術的、財務的利益を研究所・病院はもとより、東京大学全体に還元し、さらに日本および世界の医科学・生命科学研究の発展に寄与したいと考えております。

さらに、IMSUT One to Gogo プロジェクトに関連した事として、港区や白金台近隣との継続的な地域連携の強化にも力を注ぎ、医科学の発展と相互利益という観点から共に進化して行きたいと願っています。また、内閣府の科学技術政策の一環として推進されている「先端医療開発特区(スーパー特区)」を視野に入れた計画も推進してまいります。これは、最先端の基礎医科学・生命科学を基盤とした革新的医療や新規抗体医薬・ワクチンなどの早期実用化が出来る国際的研究・開発環境を白金台キャンパスに構築するものです。医科学研究所・病院を中心として、グローバルな革新的医薬品・医療開発において有利に働く環境となることが期待できます。

最後になりましたが、本日ここにお集まり頂きました皆さんおよび研究や業務のためにここにはいらっしゃらない方々一人一人全員が、世界のトップを目指すという共通の目標を持ったTeam IMSUTの重要なメンバーです。メンバー全員の叡智、パワー、創造力を結集し、世界が認める医科学・生命科学研究機関の最高峰として医科学・生命科学分野における基礎および応用研究の発展へ大きく貢献していきましょう。そして、我々が進化し続ける為には、その主要な推進力となる優秀で生産性の高い大学院生、ポスドク、若手教員などの次世代を担う研究者の育成・トレーニングが重要となります。若手研究者の皆さんには、是非、様々なチャンスを積極的に利用して国内外で色々な医科学研究に挑戦し、多くの経験を積んで頂きたいと願っています。Team IMSUTの一員としての誇りと自信を持ち邁進していただき、将来は医科学研究所そして世界の著名な研究機関になくてはならないリーダー的存在となり、国内のみならず世界のために活躍して下さい。
結びに、劇作家で1925年のノーベル文学賞受賞者のジョージ・バーナード・ショーの名言を引用して皆さんに紹介して、私自身への戒めにもしたいと思います。「変化を起こすことなしに進歩することは不可能だ。そして、考え方を変えることができない人は、何も変えることはできない。」医科学研究所と医科研病院が世界のトップに立つためには、皆さん一人一人の積極的な自発力と推進力が必要不可欠です。「変化」を恐れず、勇気を持って時には大胆にアクションを起こしていくことを期待しています。
最後に、医科学研究所・医科研病院における皆さんのこれまでのご尽力・ご貢献に改めて心より感謝申し上げますとともに、Team IMSUTの重要なメンバーとして引き続き素晴らしいご活躍をされますことを期待しております。2014年が皆さんにとって健康で実り多き1年でありますよう祈念致しまして、新年の挨拶にかえさせて頂きます。

 写真  左:所長新年挨拶         右:鏡割りの様子  (クリックで拡大)