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2013年 清野宏所長新年挨拶

2013年 清野宏所長新年挨拶

2013年01月08日

皆さん、新年明けましておめでとうございます。
年末年始は皆さんご家族やご友人の方々と過ごされ、充分にリフレッシュされたことと思います。そして正月休みが明けた今、もう一つの家族、医科学研究所(以下「医科研」)の仲間の元に戻って来られたと言ってもよいでしょう。これから始まる新しい一年が、皆さんにとって健康で益々ご活躍いただく一年となりますことを心よりお祈り申し上げます。そして、Team IMSUT/IMSUT Familyとして、当研究所と病院のさらなる進化・発展に向けて頑張りましょう!

昨年は日本の医学・医科学研究者に大変大きな影響を与える出来事がありました。皆さんご存知のとおり、京都大学の山中伸弥教授が「成熟細胞が初期化され多能性をもつことの発見」によりノーベル医学生理学賞を受賞されました。この賞の受賞者としては日本人初ではありませんが、日本で行われた医学・医科学研究が評価され医学生理学賞を受賞されたのは、初めてのケースです。勿論、2002年に蛋白質の質量分析法の開発でノーベル化学賞を受賞された本所客員教授の田中耕一先生の研究も日本で行われたものでしたが、山中教授の受賞は、医学、医科学、生命科学を推進する日本の大学機関でもこのような素晴らしい研究結果を出せるのだということを証明してくれました。今、この場にいる医科研メンバー、若しくは研究・臨床等の都合でこの場には来られなかった医科研メンバーのうちのどなたかがノーベル賞を受賞する可能性も十分あるということです。

勿論、研究成果を評価するものは賞だけではありません。皆さんの昨年一年間の研究成果により、医科学・生命科学分野における医科研の影響力は確実に高まっています。ここで、医科研から発表されたインパクトファクター10以上の論文に関する最新データをご紹介します。2012年のデータはまだ公表されていませんので、2008年~2011年までのデータとなります。一見、大きな変化はなく、皆さんの日々の努力により一定の高いレベルを維持し続けているように見えます。 しかし、実は、2011年にはこの他に当初のインパクトファクターが9.9と僅かに10を下回った「Blood」掲載の論文が19本あるのです。従って、グラフは右肩上がりと言ってよいと思いますが、我々は、それに満足することなく、更に上を目指していかなければいけませんし、それが出来ると思います。

論文発表数の他、昨年は新たな3名の教授および特任教授の採用、また2名の教授昇進の決定(2013年2月に辞令交付)も医科研に新風を吹き込みました。武川睦寛教授(分子シグナル制御分野)、長谷耕二特任教授(粘膜バリア学分野)、植松智特任教授(自然免疫制御分野)、武藤香織教授(公共政策研究分野)、田中廣壽教授(附属病院・抗体・ワクチンセンター)、以上5名がその素晴らしい研究者及び臨床医の方々です。今後の益々のご活躍とご発展を心より期待しております。

さらに、こちらのスライドに示しておりますように、昨年は7名の医科研メンバーが他機関へ教授および准教授として栄転されました(教授4名、准教授3名)。この事は医科研の人材育成の質の高さを証明しており、また、医科研が優秀な人材の輩出という形で日本の医学・医科学分野に大きく貢献している事も証明しています。今後より多くの若手の優秀な医科研メンバーが、医科研や医科研病院で培った経験や能力を基礎として国内の研究・医療機関、さらには海外の研究・医療機関で自分の研究チームを率いて活躍して頂きたいと願っています。

2013年は巳年です。蛇は、日本では不気味で暗いイメージがありますが、中国では知的で賢い動物と言われています。中でも今年は巳年の中でも癸巳(みずのとみ)にあたり、知的で、洞察力に優れ、意欲に溢れる蛇の年です。更に、中国では蛇は物事を計画的且つ注意深く進め、必ず目的を成し遂げる動物とも言われています。2013年は医科研にとってIMSUT One to Gogoアクション・プランの完成の最も重要なカギとなり得る、まさに巳年に相応しい年と言えるでしょう。

つまり、2013年はIMSUT One to Gogo プロジェクトの詳細な計画を完成させる年です。これまでにも運営会議などで話し合いを重ねてきましたが、今年は正式に関連委員会を立ち上げ、皆さんの意見や提案も反映させながら取り組んでまいります。 IMSUT One to Gogo プロジェクトの3つの重要な柱をここでご紹介します。

ご存知のとおり、2004年4月に国立大学は法人化されました。以来、毎年政府から交付される運営費交付金は減少する一方です。しかし、ここで注目して頂きたいのは、東京大学は法人化されただけであり、完全に民営化された訳ではありません。我々は優秀な研究者や学生の獲得の為に他大学との世界競争を強いられる一方、資金調達や運営の自由度という点では国内外の著名な私立大学に比べると制約を受けています。 そこで、現行のシステムの中で、医科学で最先端を走る東大附置研究所である医科研が戦略性と柔軟性を発揮して、当研究所・病院はもとより、東大全体、そして国内外の医科学研究・人材育成に貢献するために、医科研財団の設立を目指しています。 国内外の一流の医科学研究者に、他の国内有力大学はもとより、スタンフォード大学、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学のような世界で一流の大学よりも医科研で研究したい、と思ってもらえるような魅力的な研究所になるためには、柔軟な制度設計と資金確保が大きなカギを握ることは言うまでもありません。十分な資金調達ができれば運営費交付金の減少にも対処でき、医科研及び医科研病院が最先端の基礎医科学及び臨床医学研究を効果的に進める上でも、様々な面で選択肢が広がります。そして、そこから得られるベネフィットを東大全体にも還元し、世界の頂点を目指したいと考えています。

次にプラチナウエスト再開発についてご紹介します。この写真は、白金キャンパスのここ数十年の様々な変化を表したものですが、キャンパスの西側の建物は一部を除いてかなり老朽化してきています。建築物の耐震基準が益々厳しくなる昨今ですが、西側の建物の多くは30~40年前に建てられたもので、その中には研究室だけでなく、白金インターナショナルロッジや看護師宿舎も含まれます。 これら建物の一新を含め、医科研での最先端医科学・生命科学研究の発展に必要とする施設の建設はもとより、その新施設が東大全体の医科学・生命科学の発展に貢献することが大切です。そして、医科研はプラチナウエスト再開発を通して、東大をはじめとする日本及び世界中の医科学・生命科学研究者の為の世界的ハブ研究施設になることを視野に入れています。これらの計画については、昨年の第1回教授会リトリートでの議論を出発点として、執行部を中心として話し合いを重ねて参りました。その内容をまとめ上げ、今年度中には青写真をまとめ、皆さんに紹介することを目指しています。

そして最後の柱は、医科研及び医科研病院が、世界が認める一流の研究機関および病院に進化するためのアクション・プランの完成です。川口寧教授を中心とする研究系の検討委員会(WGメンバー:川口寧教授、三宅健介教授、中井謙太教授、津本浩平教授、及川政光副課長(管理課)、神誠係長(研究支援課)、岩本聖子主任(研究支援課)、尾後貫利之一般職員(管理課)、都竹順子技術専門職員(プロジェクトコーディネーター室))と藤堂具紀教授を中心とする臨床系の検討委員会(WGメンバー:藤堂具紀教授、今井浩三病院長、村上善則教授、長村文孝教授、三上隆美課長(病院課)、宮坂安佳副課長(病院課)、小渕和宏主査(病院課)、相澤繁美技術専門職員(プロジェクトコーディネーター室))がすでに始動しており、アクション・プランの作成を進めています。今週末に開催される第2回教授会リトリートで、これら2つの検討委員会から最新の進捗報告を受け、ディスカッションを行う予定です。近いうちにアクション・プランの詳細を皆さんにも紹介できるかと思いますので、その時には是非、皆さんからも活発にご意見やアイディアを頂ければと考えています。

そしてまた、このアクション・プランが医科研および医科研病院の将来へ向けての方向性を提示する大変重要な計画であることは言うまでもありません。一方、我々には常に病院を擁する研究所として画期的且つ最先端の基礎・臨床研究を推進し、その成果を最先端医療そして創薬、ワクチンとして患者さんのもとに届けるというミッションがあります。それを反映するように、橋渡し研究拠点として、医科研病院では、現在、トランスレーショナル・リサーチの具体的な例として、いくつか非常に興味深い臨床研究が計画されています。まさしく、医科研の真髄とも言える"Bench to Bed/Bed to Bench"の具現化です。

最後になりましたが、本日ここにご参集頂いた皆さん及び都合によりお集まり頂けなかった方々も含め、皆さん一人一人が、世界の頂点を目指して前進するTEAM IMSUTの構成メンバーです。日々進歩を続ける医科学・生命科学分野で成果を上げる為には、皆さん一人一人の独創性、推進力、そしてたゆまぬ努力が必要不可欠です。もちろん、研究者や医師だけでなく、看護師をはじめとする病院スタッフの皆さん、テクニカルスタッフの皆さん、事務関連の皆さん そして医科研所員皆さんの日々の努力の積み重ねと医科研全てのメンバーのチームワークが必要不可欠です。また、無限の可能性を秘めた優秀な大学院学生やポスドクの皆さんが医科研の基礎および臨床研究の水準を恒常的に高める大きな原動力となっていることは言うまでもありません。我々は1つの家族のようなものであり、お互いに切磋琢磨しながら世界の医科学・生命科学に貢献し、また、ここを巣立って世界に羽ばたく方もいるでしょう。しかし、将来活動拠点をどこに置こうとも、皆さんはいつまでも医科研という家族の一員であり、TEAM IMSUTのメンバーです。共に前進を続け、IMSUT One to Gogoを通して、共に世界の頂点を目指しましょう!
今日までの皆さんの献身と勤勉さに心からの敬意と感謝の意を表しますとともに、皆さんの今後の更なる飛躍を期待致しております。2013年が皆さんにとって健康で輝かしく充実した年になりますように、お祈り致します。

  写真  左:所長新年挨拶                右:鏡割りの様子  (クリックで拡大)