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 遺伝子組換えと切断との関係を追求した結果、「遺伝子自身を攻撃する病原体と、それに対する遺伝子群の抵抗」という図式が現れた。「本来利己的な性質をもつ遺伝子が互いに戦い協調する社会としてのゲノム」という見方によって、遺伝子の病いと死、修復と相互作用を理解する展望が開けた。


遺伝子組換えとDNA両鎖切断

 なぜ遺伝子は愛し合うのか?相同組換えをするのか?

 まず大学院生、助手時代には、遺伝子相同組換えの機構を試験管内ウイルス再構成法を利用して解析した。バクテリオファージ(細菌にかかるウイルス)であるラムダDNAを空のラムダ頭部に詰め込み感染性粒子を作る試験管内パッケージ(包み込み)反応を使い、細胞内での組換え中間体と一次組換え産物を定量的に検出し、電子顕微鏡などで解析した。

 続いて、アメリカ合衆国でラムダの相同組換えの研究を続けた。パッケージの際にマルチマー(多量体)DNAからモノマー(単量体)が切りだされる反応が、相同組換えに重要であることを証明した。さらに、細胞内で制限酵素を働かせることによって、DNAの両鎖切断自身が重要であることを証明した。より具体的には、大腸菌自身のRecBCD組換え系については、「二重鎖切断からRecBCD酵素がDNA上を移動していき、カイ配列に出会うと、組換えを起こす」というスキームを提出した。ラムダ類縁ファージ自身の組換え系については、「二重鎖切断が、無傷なDNAを鋳型とする合成によって修復され、これに交叉が伴う」という「二重鎖切断修復モデル」を提唱した。

 では、なぜ相同組換えが、両鎖切断によって始まらなければならないか?

相同組換えのプラスミドを用いた解析

 帰国後、「二重鎖切断修復モデル」を実証し、関与する遺伝子産物を同定した。「二つのDNA分子の相同組換えによって、二つの組換え体DNA分子ができるか、一つの組換え体DNA分子ができるか」という基本的な問題にも答えた。相同組み換えの繰り返しによって、遺伝子変換が起きることを示した。

制限酵素修飾酵素遺伝子の「利己的な」ふるまいの発見

 通常制限酵素遺伝子には、同じ認識配列をメチル化し制限酵素から保護する修飾酵素の遺伝子が隣接する。制限修飾酵素のペアは、「侵入DNAを切断することによって細胞を守るためにある」というのが定説であった。私達は、「制限修飾遺伝子を失うと細胞が死ぬ」ことを発見した。「細胞から制限修飾遺伝子が失われると、細胞分裂に伴って修飾酵素がうすまっていき、染色体上の認識配列をメチル化しきれなくなる。そこを残った制限酵素が切断すると、細胞は殺される。」という過程の実験的証拠を得た。さらに、染色体上の制限修飾遺伝子も同様の機構によって喪失に抵抗すること、この過程でゲノムの大規模再編が起きることを発見した。

制限修飾系の利己的遺伝子説

 これらの実験から、制限修飾遺伝子はウイルスのような独自の遺伝単位であり、この「分離後宿主殺し」戦略と「動く」戦略とによって広がり維持されている、という「利己的遺伝子」仮説を提唱した。

 同じ塩基配列を認識する制限修飾系は同じ宿主細胞内では同時には安定化されないことを実験によって証明した。つまり、制限修飾系の間には塩基配列を取り合う競争がある。これが、制限修飾酵素の認識配列の多様性と特異性への淘汰圧と考えられる。「宿主細胞に既に居る制限修飾系が、あらたに感染してくる制限修飾系に、制限酵素をいきなり発現させて、染色体を切断させ宿主を殺させる」という「重感染排除」現象を発見した。重感染排除と認識配列によって、制限修飾系の二次元自然分類ができる。細菌ゲノムの解読から、制限修飾遺伝子の挿入、制限サイトの淘汰など、利己的遺伝子説を支持する証拠が報告されている。

相同組換えの役割


 「相同組換えで、なぜ二重鎖切断が重要な役割を果たすのか」という謎は、上の制限修飾遺伝子が「生き物」であるという発見によって解決しようとしている。ファージの「二重鎖切断修復」は、様々な制限酵素の攻撃に対するファージ側の防御機構であることを、実験で証明した。細胞のRecBCD系は、制限修飾系が侵入したDNAを攻撃するときは制限修飾系を助けるが、分離後宿主殺しに対しては染色体を修復して抵抗することを実験で証明した。これらから、RecBCDカイの系は、非自己DNAを破壊し、カイでマークされた自己DNAを守る系であると提案した。実際、RecBCD酵素は別の配列を認識するように変異することを証明した。自然にできる染色体二重鎖切断の修復にもこれらは関与していた。

遺伝子の治療へ


 相同組換えなどの相同相互作用によって体細胞変異を修正することを目標に、基礎的研究を進めている。複製欠損アデノウイルスベクターによってドナーDNAを導入し、マウス内ウシパピローマウイルスプラスミド上の変異を高効率高精度で修正した。

相同相互作用に依存した非相同組換え


 従来、相同組み換えと非相同組み換えは別の機構と考えられていた。上の実験などで、「DNAのホモロジー相互作用が、非相同組み換えを引き起こした」ことを示唆する産物を発見した。さらに大腸菌での定量的な実験で、「ホモロジーとRecA機能と制限酵素作用に依存する非相同組み換え機構」の存在を証明した。

相同組換え反応効率とホモロジーの長さ

 上の発見に示唆されて、「相同組換えの中間体で、相同なDNAを連結する点が、ホモロジーに沿ってランダムウォークし、ホモロジーの端にぶつかると破壊される」という定式化をした。その結果は、マウス遺伝子ターゲッティングでの3乗依存性など、多くの系におけるホモロジー長さ依存性をうまく説明できた。

将来の方向

 「死をプログラムするもっとも単純な病原体」としての制限修飾遺伝子のふるまいの解析を続け、さらに、「利己的な遺伝子の戦いと協力の社会としての生命体」という仮説を検討しつつ、遺伝子どうしの社会的相互作用、遺伝子の本質的利己性に由来する病原性、遺伝子間ホモロジー相互作用、について機構と意味を解明していきたい。「ヒト遺伝子変異の修正」という長期目標も持ち続ける。

(小林一三:「遺伝子の死と再生」医科研NOW (東京大学医科学研究所発行) No.16 pp.14-15 (1999)。より改変)